恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
310 / 359

第309話

しおりを挟む

 うたげのあと、自室に戻ったジルヴァンは、早速、アミィを呼んでくるよう護衛剣士のカイルに指示を出す。

「ついでに、キョースケのようすがどうなのか、見たままを報告せよ。」
御意ぎょい。」
「キ、キョースケに気づかれぬよう、隠密おんみつにな!」
「承知しました。……ところで王子様、宴の途中とちゅうから顔色がよろしくないように見えますが、どうかなさいましたか。」
「むっ? そんなことはないぞ!? カイルは早くアミィのいる執務室へ行くのだ!」
「失礼しました。行って参ります。」

 カイルは発言を謝罪し、へやから退出した。五穀豊穣の宴は王室行事の中でも、ひときわ華やかで、護衛兵士の配列も抜かりはない。ジルヴァンの背後に控えていたカイルは、第4王子が何かを耳許みみもとでささやいたのち、ジルヴァンの表情が暗くなったような気がした。だが、剣士の役目は王子を身の危険から守ることであり、日常生活に私情をはさむようではいけない。カイルはただ、ジルヴァンの幸せを心から願っていた。そのために必要な人物こそ、あの事務内官であると正しく認識している。

 アミィを呼び出すジルヴァンの魂胆こんたんは、恭介について、知るかぎりの情報を聞き出そうという計画である。ふだんの真面目まじめな仕事ぶりは、城内のあちこちから聞こえてくるが、執務室でのようすは、同じ空間で働く者しか説明できない。ちょっとしたくせや、日常会話など、些細ささい事柄ことがらであっても、かまわなかった。情人イロの私生活を干渉するほど、愚かしい行為はない。だが、ジルヴァンの本心は、他の誰よりも、恭介にそばにいてほしいと思っていた。しかし、事務内官として仕事に励む当人の能力も捨てきれない。なにより、ジルヴァン自身が恭介に与えた居場所である。私欲で活躍の機会を奪う真似は、到底できるはずもなかった。

「……キョースケ、……キョースケよ。貴様きさまほどの男ならば、われの気持ちを少しはまぬか。……これほど恋しいというのに、貴様はなにも感じぬのか。」

 ジルヴァンの切実な思いは、確実に届いていた。恭介の立場が様変さまがわりする日は、もう近い。

    * * * * * *
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺はただ怪しい商人でいたかっただけ

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:46

【完結】子供が欲しい俺と、心配するアイツの攻防

BL / 完結 24h.ポイント:4,373pt お気に入り:139

三鏡草紙よろづ奇聞[次話更新6月15日〜]

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

アイオライト・カンヴァス -交わることのない、俺と、君の色-

BL / 連載中 24h.ポイント:1,243pt お気に入り:131

改造空母機動艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:6,419pt お気に入り:107

三千世界・完全版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:221pt お気に入り:15

【R18】奴隷に堕ちた騎士

BL / 完結 24h.ポイント:617pt お気に入り:448

総受け体質

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:151

崖っぷちOL、定食屋に居候する

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:184

東京ラプソディ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:136

処理中です...