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第309話
しおりを挟む宴のあと、自室に戻ったジルヴァンは、早速、アミィを呼んでくるよう護衛剣士のカイルに指示を出す。
「ついでに、キョースケのようすがどうなのか、見たままを報告せよ。」
「御意。」
「キ、キョースケに気づかれぬよう、隠密にな!」
「承知しました。……ところで王子様、宴の途中から顔色がよろしくないように見えますが、どうかなさいましたか。」
「むっ? そんなことはないぞ!? カイルは早くアミィのいる執務室へ行くのだ!」
「失礼しました。行って参ります。」
カイルは発言を謝罪し、室から退出した。五穀豊穣の宴は王室行事の中でも、ひときわ華やかで、護衛兵士の配列も抜かりはない。ジルヴァンの背後に控えていたカイルは、第4王子が何かを耳許でささやいた後、ジルヴァンの表情が暗くなったような気がした。だが、剣士の役目は王子を身の危険から守ることであり、日常生活に私情を挟むようではいけない。カイルはただ、ジルヴァンの幸せを心から願っていた。そのために必要な人物こそ、あの事務内官であると正しく認識している。
アミィを呼び出すジルヴァンの魂胆は、恭介について、知るかぎりの情報を聞き出そうという計画である。ふだんの真面目な仕事ぶりは、城内のあちこちから聞こえてくるが、執務室でのようすは、同じ空間で働く者しか説明できない。ちょっとした癖や、日常会話など、些細な事柄であっても、かまわなかった。情人の私生活を干渉するほど、愚かしい行為はない。だが、ジルヴァンの本心は、他の誰よりも、恭介にそばにいてほしいと思っていた。しかし、事務内官として仕事に励む当人の能力も捨てきれない。なにより、ジルヴァン自身が恭介に与えた居場所である。私欲で活躍の機会を奪う真似は、到底できるはずもなかった。
「……キョースケ、……キョースケよ。貴様ほどの男ならば、吾の気持ちを少しは汲まぬか。……これほど恋しいというのに、貴様はなにも感じぬのか。」
ジルヴァンの切実な思いは、確実に届いていた。恭介の立場が様変わりする日は、もう近い。
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