恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第308話

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 かれこれ、ひと月ほど前、恭介がやるべきことに集中する最中さなか、ちょっとした事件が起きた。王室行事に(面倒ながら渋々)出席したジルヴァンは、第4王子のシグルトから耳打みみうちされた。

「ジル。おまえの情人イロとやらは、曲者くせものだな。いや、強者つわものと評しておくべきか……。」

 突飛な意見につき、ジルヴァンは眉をひそめ「なんのことであるか?」と、小声で聞き返した。本日は、五穀豊穣を祈願するうたげにつき、第4王子のほか、数十人もの身内が方卓テーブルを囲っている。そこに義兄ルシオンの姿はない。また、日頃から病弱な第5王子は欠席扱いのため、シグルトの隣りにジルヴァンが座ることになった。

「そのようすだと、キョースケは独断どくだんで動いているようだな。」
兄上あにうえよ。いったい、それはなんのことか?」
「おまえはキョースケについて、何を承知している?」
「どういう意味であるか?」
「なんでも構わぬ。好きな食べ物や趣味のこと、生まれてから今日こんにちまでの、いわば為人ひととなりについて、どこまで知っているのだ。」

 シグルトは、恭介の身分が私奴やっこから平民に仮登録された事実を内密で調べていたが、ジルヴァンは恭介について、あまり細かな情報を得ていない。改めて問われると、好きな人についての知識は、あまりにも少なかった。恭介のために何かしてやりたいと思う反面、情人として独占している現在、なんとなくそれだけで満足していたジルヴァンは、急に不安をおぼえた。

「……むぅ、なんたる不覚であったことか。われは、キョースケの事情を、ほとんど知らぬな。以前、両親は遠いところにいると聞いたことがあるが、それはつまり、コスモポリテスの出身者ではないということか……。確かに、あのような見た目は、めずらしかった。」

「フッ、正直だな。では、ひとつ教えてやろう。これより1ヵ月後、北棟で文官試験が実施される。……当日、会場へ行ってみるがいい。なにかしらの収穫があるはずだ。」

 シグルトは恭介に関する情報を示唆しさするが、ジルヴァンは第4王子の本心を見抜けず、ただ当惑とうわくした。

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