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第305話
しおりを挟む門前脇に設置された黒板のような掲示板に、それはそれは長い紙で、受験者の点数と役職官位が記されていた。恭介の受験番号は75番である。試験は不正を働けないよう引いた籤ごとに出題内容が変わるため、誰ひとりとして、同じ解答にならない仕組みになっていた。〔第295話参照〕
(うおっ、すげぇ混雑してんな!!)
最前列まで行くには、数十人の肩を押し退ける必要があった。試験は午前と午後に分かれていたが、結果発表はいちどに行われ、受験者が一斉に集まっている。ざっと見たかぎり、二百人以上がひしめき合っていた。恭介は周囲の人間の躰にぶつかりながら、なんとか番号を目視できる距離まで近づいた。首をのばして目を凝らす。下から数えたほうが早いと思い、左側から番号を探したが、なかなか見つからない。
(……まさか、落ちたりしてねぇよな!?)
用紙の半分が過ぎても、まだ見つからない。焦る気持ちが強くなり、見落とした可能性を疑って何度も確認した。しかし、75番の文字はない。
(おいおい、嘘だろ。オレは不合格なのか?)
そのうち、指先がふるえてきたが、長い用紙とは別に小さな貼り紙が先頭にあることに気づいた。現在の立ち位置からでは、記された文字が細かすぎて読み取れない。仕方なく、右隣りで結果発表を見つめている青年に声をかけた。
「ちょっといいか? あっちの小さい紙には何が書いてあるンだ?」
見るからに若い男につき、敬語は使わない。恭介から気安く話しかけられた人物は、スラッとした細身で、キレイな顔立ちをしていた。髪と眼の色は濃い黄色で、着流しのような恰好をしている。突然、声をかけられ、一瞬眉をひそめた後、質問に答えてくれた。
「向こうのは、成績と書類審査から適正だと割り出された高官任命者ですよ。」
「高官って? 文官とはちがうのか?」
「……あなた、試験を受けた人じゃないのか?」
そんなことも知らないのかと、訝しむ男は、恭介の黒髪に目を留めて「あ」と、納得した。
「余処者でしたか。それならば知らなくても当然ですね。高官とは、文官として身を置くことに変わりはないけれど、王族の側近候補につき、これから1年間、厳しい教育を受けさせる者たちのことです。この期間に不適切な行動を取ってしまうと、資格を剥奪され、城から追放されます。」
「そいつはまた、責任重大だな。」
「ええ。合格したからといって、舞い上がるほど愚かではいけない。」
「キミの番号はあったのか?」
「ありました。」
「小さい紙に?」
「ええ。」
「すごいな。しっかりやれよ。」
「云われずとも。あなたこそ、受かったのですか?」
「うん? それがまだ番号が見つかってなくて……、」
「何番ですか?」
「75だ。」
恭介より視力の高い男は「えっ」と、小さく驚いてから、スッと掲示板を指で示した。
「75番の人でしたら、小さい紙に名前が書いてあります。あなたは、イシカワキョースケ様とおっしゃるのですか?」
「な、なに!? 小さいほう!?」
(ってことは、オレは高官に選ばれたのか!? 本当に側近候補かよ!?)
思わず、前のめりで掲示板へ喰らいつくと、前列に立っていた若い男からジロッと睨まれてしまった。側近候補に選ばれた者は、公平を期すため点数は表記されず、番号と名前のみが綴られている。
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