恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第302話

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 アレントが神殿の大司祭となり、城下町は連日のように祝賀モードでにぎわっていた。仕事休み、食材の買い出しに町まで足を運んだ恭介は、ちょっとした騒ぎを小耳こみみに挟むが、巻き込まれないよう遠まわりした。〔時間軸=第178話参照〕
 武器屋の中では、ゼニスとリゼル親子が強盗退治をしていたが、そうとは知らない恭介は、危険だと判断し、現場から遠ざかる。

(来月には、試験の結果発表があるんだ。これでも、大事を控えてる身だし、対岸たいがんの火事には気をつけねぇとな……)

 近づきすぎては、肩に火のが降りかかる程度ではすまされない。自身の安全と健康を確保してこそ、大切な人を守ることができる。余計なお節介せっかい自己犠牲じこぎせいは、浅はかな行動である。そう学習した恭介は、必要な日用品を買い足すと、寄り道をせず帰宅した。

 ここ数日、穏やかな時間が流れていた。ジルヴァンから共寝の呼び出しがない点は気詰きづまりに感じたが、少なくとも、約束の日は近い。
(2ヵ月後に誘ってくれって云ったのは、オレのほうだしな。それまでは呼ばれないだろうとは思ってたよ……)
 購入した荷物を整理しながら、恭介は小さくため息を吐いた。表向おもてむきの立場は事務内官ふぜいにつき、日中から堂々と会いに行くことはできない。だが、文官であれば、ジルヴァンの顔を見に行くことは可能である。理由はなんでも思いつく。第6王子が面会を断らないかぎり、恭介から会いに行くことができた。

(あと数日で、オレの立場は変わる。これからは、毎日だってキミの声を聞けるはずだ。ジルヴァン、キミはよろこんでくれるか? 早く会いたいぜ)

 待ち遠しい日々が2ヵ月も続く。へやの窓を開けると、そよ風が吹き込んできた。長椅子ソファで昼寝をして過ごし、夜は帰宅したザイールと調理室で晩ご飯を食べた。近いうち、恭介は御室堂おむろどうへ引っ越す予定があるため、ザイールとの平穏な暮らしに感謝しつつ、ふたり分の食器を片付けた。城内にある共同浴場へ向かい、カラダを洗った後、肩に届く髪をザクッと小刀ナイフで切る。もとより、長髪ちょうはつが似合うタイプではないと自覚する恭介は、慎重な手つきで髪を初期の頃のように短く整えた。

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