302 / 364
第301話〈安穏とした日常〉
しおりを挟む神殿では、真っ白な衣装を身につけたアレントが、祭壇の前で演説をしていた。
「あの日、私は過酷な運命をむしろ愛して、生きることを望んだ。人間の生きんとする意志の中にあるものは、勇気である。完成された神の領域は、ひとつの憶測であり、創造する意志こそ、聖なる発語をもって、静かな至福が誕生する瞬間なのである。」
神聖なる世界観に詳しくない恭介は、群がる聴衆に交じり、興味なさげに佇んでいた。コスモポリテス城と神殿の合間に押し寄せた人々は、礼拝堂から聞こえてくる新たな大司祭の声に耳をすませている。傍らのアミィは、両手を胸の前で合わせ、祈りのポーズを捧げていた。恭介の左隣りに立つユスラも、いつもより真剣な表情を浮かべている。
(う~ん、オレだけ場違いなところに居るような気がするな……)
ポリポリと指で前髪を掻きつつ、祝典のことよりジルヴァンに誤解されたままの状況が気になった。互いの認識が異なっている以上、多少の衝突は避けられない。たとえ口論に発展しようとも、ふたりの将来に関する事柄につき、恭介は第6王子を説き伏せる必要があった。
(……まったく、なんでいつもこうなるンだろうな。オレの都合よくいった試しがねぇな。……気苦労なら、いくらでも買ってやるさ。だがよ、最終目的は誰にも邪魔させねぇからな。……で、次は何が起こる? どっからでもかかって来い。特にルシオン!!)
後手にまわり、悩んでばかりはいられない。ルシオンに対して云いたいことが山ほどある恭介は、つい相手の立場を忘れ、敵視してしまう。ジルヴァンの情人という点を除けば、恭介の身分は、ルシオンの足許にもおよばない。うっかり喧嘩を売っては、牢屋に拘束される可能性もある。
(……どうあっても、オレのほうが格下なんだ。いくら努力しても対等な人間にはなれない。相手は王族だ。それはわかってる。オレはただ、ジルヴァンのそばにいることができれば充分なんだ)
恭介は、自ら手に入れることができる地位に挑戦した者のひとりである。それにより発生する責任も、当然ながら引き受けなければならない。だが、選択は自由だ。人間が人間としての主体性を超えないかぎり、世の中は混乱せず、解決できない諸問題を抱えることはない。恭介は静かな緊張と興奮を覚えたが、視線を投げて認識したい想い人の姿を捉えることはできなかった。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
夏休みは催眠で過ごそうね♡
霧乃ふー 短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。
実は、俺は催眠を使うことが出来る。
催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。
いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。
部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
催眠眼で手に入れた男子学生は俺のもの
霧乃ふー 短編
BL
俺はある日催眠眼を手に入れた
そして初めて人に催眠眼を使う為にエロそうな男子学生を物色していた。
エロ可愛い男子学生がいいな。
きょろきょろと物色する俺の前に、ついに良さげな男子学生が歩いてきた。
俺はゴクリと喉を鳴らし今日の獲物を見定めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる