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第293話
しおりを挟む朝からジルヴァンの寝間で、のんびり過ごす恭介は、この上なく心が満たされていた。顔面に喰らった肘鉄の痛みは残されていたが、ジルヴァンとの距離が近い空間にいることができる状況が、たまらなく心地よく感じられた。
(キミにとってオレは、どんな存在なんだろうな……。公的にはただの情人だけど、アルミナ領へ行ったとき、ジルヴァンはオレのこと愛人って呼んでたっけ……。まぁ、あれは領主の好意をはっきり断る必要があったから、そう表現しただけかもな……)
ジルヴァンはまだ眠いのか、寝台へ戻るとカラダを横たえている。目覚めの紅茶を呑み干した恭介は、あすの試験に備えるため、退出することにした。
「ジルヴァン、オレは帰るよ。……もう少し一緒にいたいけど、そろそろ人目につくからさ。」
「……うむ。……そうせよ。」
「……なぁ、ジルヴァン。今から2ヵ月後に会う約束って、できねぇかな。」
「む? なんの話だ。」
恭介のほうから(文官試験の結果発表直後に)共寝の呼び出しを希望すると、理由を知らないジルヴァンは、少し変な表情を浮かべた。
「……貴様は何を考えているのだ、キョースケよ。吾の呼び出しを所望するとは、余程の事情があるということか?」
「重要すぎて、詳しくはまだ云えないくらいだ。」
「……むぅ、やけに含みのある物言いではないか。気になるぞ!」
「ははっ、悪い。もう少しだけ待ってくれ。……後でゆっくり、キミに話しておきたいことがあるンだ。」
「それがなぜ2ヵ月後なのだ?」
「うん? そりゃ、本物の臣下に為りたいからさ。」
「臣下? 貴様は吾の情人である。臣下とは意味も立場も違うのだ。」
「……そうかもな。」
真相をはぐらかされたジルヴァンは、眉間に皺を寄せた。うっかり口がすべる前に、恭介は「またな」と云って、寝間を立ち去った。王宮関係者通路から帰宅すると、ザイールの姿はなく、すでに神殿へ向かったようだ。恭介は前髪を指で掻きあげると、定位置となっている長椅子へ座った。
(……たとえ相思相愛の関係だとしても、結局は性欲の捌け口みたいなイメージが捨て切れねぇンだよなぁ。……なんつーか、セックスフレンドって感じがして、どうも微妙なんだ。いくら王族の風習だとしても、オレの自尊心がガタつくぜ。……こうなった以上、必ず文官になってジルヴァンを堂々と支えながら、夜の時間も充実させてやるぞ!)
恭介の野望は膨らむばかりであった。
* * * * * *
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