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第292話〈キミの臣と為る〉
しおりを挟むジルヴァンの寝相は(はっきり云って)最悪だ。数ヵ月ぶりの共寝を果たした恭介は、朝方、顔面に肘鉄を打たれ、前歯が何本か折れたかと本気で思った。当たりどころが頬骨寄りにつき、かろうじて鼻血は免がれた。
(ぐおぉぉぉっ!! いってぇッ!!)
激痛だが声には出さず、必死に耐える。二撃目を喰うまえに寝台から抜け、床に落ちていた情人の絹衣を羽織った。あすは、ついに試験当日である。合格発表は(えらく待たされることに)2ヵ月後につき、しばらく気を張って過ごさなければならない。
(……ふぅ。きのうは一段と格別な夜だったぜ。……試験前にジルヴァンと性交できるなんて、なんか幸先良くねーか?)
恭介なりに受け身の負荷を考えながら共寝をしているつもりだが、昨晩は久しぶりの興奮が抑えきれず、ずいぶんジルヴァンをあえがせてしまった気がする。もっとも、いちどの共寝に精子の中出しは1回かぎりという決まりがあり、至って健康体な恭介は物足りなさを感じた。欲をかいてジルヴァンを憤慨させた過去もある。
(……キミの寝顔は天使なのに、残念な寝相のせいで毎度の目覚めが悲しいぜ。……くそ、キスしてやろうかな)
無防備な姿で熟睡するジルヴァンは、恭介の下心と視線を感知したように起床する。
「おはよう、ジルヴァン。」
「……むぅ、いつも早いのだな、キョースケは。」
「そうでもないよ。オレもさっき起きたばっかだしな。……ここに置いてある紅茶、淹れてもいいか?」
「うむ。吾にも一杯たのむ。」
「オーケー。」
円卓に用意されてあった茶器を使って温かい紅茶を淹れると、ジルヴァンは肩から布団を羽織って近づいてきた。恭介の傍らで立ちどまり、渡された茶碗で紅茶をひと口呑むと、おもむろに首を伸ばしてくる。恭介は口に運びかけた茶碗を円卓へ戻すと、ジルヴァンと口唇を重ねた。そっと触れるだけの、挨拶ていどの口づけをする。
「……具合はどうだ?」
「否、あちらこちら筋肉痛である。」
「そっか。いつもごめんな。それに、ありがとう。ジルヴァンには感謝してる。」
「急に改まって、なんなのだ?」
「伝えたかった気持ちを、口にしただけだよ。」
「……ふん。……右腕をよく見せよ。」
「……どうぞ。」
ジルヴァンは恭介の袖口を捲ると、線状に残された傷痕を見つめた。疼うに痛みは感じないが、ジルヴァンは心配そうな表情をしてから、眉をひそめた。
(ごめんジルヴァン、そんな顔をさせちまって……。キミを悲しませる真似は、もう二度としないよう気をつけるから許してくれ……)
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