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第286話〈魚鱗の戦士襲来〉
しおりを挟む恭介が文官試験の準備を着々と進める頃、アカデメイア川の水域に不穏な動きがあった。国が定めた漁場は獣人族の集落が近いこともあり、野生動物もよく出没した。また、漁場と農場地帯には、昔から魚鱗の戦士と呼ばれる怪人の目撃情報が絶えない。なんでも、見た目は人間と変わらないが、長い時間、水から離れて陸地で過ごしていると皮膚が乾燥し、魚のウロコのようにボロボロと剥がれ、咽喉の渇きをうるおすため人間を襲って血肉を食すという、危険な生き物だった。
漁夫のひとり息子で16歳のデュブリスは、恭介の存在に憧れる少年である。〔第100話参照〕
「父さん、きょうは大漁だね!」
「ああ、そうだな。これだけ捕れりゃ、高級魚が入ってるかもな!」
木造の小舟に乗り込んで網を引き揚げるふたりは親子である。高級魚は王宮の食事当番が毎日のように買い付けにやってくるため、大きな収入源となった。
「あっ、見てよ、父さん! ホタルビレと、赤い魚が入ってる!?」
「おおっ、どっちも当たりだ! よし、すぐ陸に戻るぞ。鮮度が大事だからな!」
「はいっ、父さん!」
デュブリスは櫓を掴んで漕ぎ始めた。ふたりの小舟が桟橋へ着くと、ちょうど王宮の人間が仕入れに顔を見せていた。デュブリス親子は早速その場で商談を交わし、高級魚の買い取りを成立させた。
「やったね、父さん。」
「そうだな。赤い魚は滅多にお目にかかれねぇからな。王族の連中さんに、おいしく召し上がってもらえりゃ、光栄ってことよ!!」
誇らしげに腕組みをする父親の横で、デュブリスは少し不安を感じた。赤い魚は高級中の高級だが、その魚が水揚げされた時にかぎり、きまって身近で不幸な事故が起きている。偶然にしては気味が悪いため、赤い魚を釣った場合、川へ戻す者もいた。
「……大丈夫かな。……ぼくたち。」
「なにがだ?」
「だって、父さん。赤い魚は、なんとなく不吉じゃない?」
「バカを云え。あれは稀少な高級魚だぞ。不吉どころか、めでたいわ!」
豪快に笑う父親を見ても、デュブリスは当惑した。何事も起こりませんようにと、祈るような気持ちで残りの魚を網から木函へ詰めていると、ガサッと、背後から物音が聞こえた。振り向いたデュブリスは、植え込みの中から現れた全裸の男と目が合った。白髪と白い髭が無造作に伸びており、全身も黒ずんで汚れている。一瞬、浮浪者かと思われたが、皺だらけの皮膚を見て、ぎょっとした。
「な、なんだ、おまえ!? こっちへ来るなっ!!」
身の危険を感じたデュブリスは、咄嗟に釣ったばかりの魚を投げつけた。
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