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第278話
しおりを挟むいつもどおりのはずが、そうではなかったらしい。とくに警戒せず執務室の扉に手を添えて鍵を開けた恭介は、キィッとひらいた瞬間、目の前にジルヴァンが立っており、反射的に「どうわーっ!!」と叫んでしまった。
「なにが、どうわーっだ! この大馬鹿者めが!!」
「ジ、ジルヴァン!? なんで仕事場にいるンだよ!?」
「何故とな? 吾がいたら迷惑か?」
「ちがうちがう、そういう意味じゃない!」
焦る恭介をジルヴァンの背後から見て笑うアミィは、片手に持つ柳籠から何かを掴んで、パッと振り撒いた。白い花びらが宙をひらひらと舞う。
(うん? なんだなんだこれは! もしかしてサプライズか……!?)
よく見れば、ユスラとレッドがショートケーキのような焼き菓子を持って近づいてくる。誕生日でもないのにお祝いモードの空気を察した恭介は、取り乱すのをやめて平常心を保った。
「みんな、オレのために集まってたのか?」
「うふふ~、そうよぉ。キョウくんの勲章授与と快気祝いを兼ねて、きょうの仕事は午後からよ!」
「アミィさん……。」
「おはようございます、キョースケさん。こちらはレッドくんと城下町で買ってきた生クリームといちごの焼き菓子です。お口に合うと良いのですが……。」
「あ、ああ。それは大丈夫だ。ありがとう、ユスラくん、レッド。いただくよ。」
「へへっ。はい、どうぞ。自分なんかが云う資格ないかも知れないっスけど、協力できることがあればバシバシ頼ってほしいっす! キョースケ様に救われたご恩は、ずっと忘れません!」
「レッド……。」
「そして、あたしからはこれよ~。何はともかく、キョウくんが無事に回復してくれて安心したわ。」
アミィは柳籠の中から小さな箱を取り出すと、恭介に手渡した。パカッと開けてみると、黒い雫石が2個入っている。外耳に挟んで使用する装身具で、耳輪をつける穴をあける必要はない。
「サンキュー、アミィさん。」
「ほらほら、ジルさま! キョウくんの耳につけてあげて~。」
「なぜ吾が……、」
「お願いできるか? ジルヴァン。」
「むっ、なんだキョースケめ。そんな顔をするでない!」
真顔で小箱を差し出されたジルヴァンは、しかたなく受け取った。
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