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第275話
しおりを挟む運良く、早朝からアミィとふたりきりで執務室へ向かうことになったレッドは、いくらか緊張していた。そうとは知らないアミィは、ふんふんと鼻で歌いながら歩く。すると、石廊のちょっとした段差につまずき、「きゃ!」と云ってよろめいた。
「アミーユ様!!」
肩が触れるほどの距離で並んで歩いていたレッドは、すぐさま腕を差しのべた。アミィの体形はレッドより横幅が広い。だが、ガシッと片腕だけで転倒を防ぎ、アミィの体重を支えることに成功した。
「きゃ~、びっくりしたぁ。どうもありがと~。」
「これくらい、お安いご用っす!」
レッドは、手のひらから伝わるアミィの柔らかい肉体を意識して、ドキドキと心臓が高鳴った。ふくよかな体形はレッドの好みで、アミィの印象はぽやっとしている。出会った瞬間から好意の花を咲かせたレッドは、自分を執務室の内官へ抜擢してくれた恭介に(それはもう運命のごとく)感謝した。ただでさえ、上級内官によるイヤガラセを受けていたレッドにつき、ようやく地獄の連鎖を断ち切ることができた。自分を救い出すためカラダを張った恭介の存在は、尊敬に値する。
「そうだわ。ねぇ、レッドくん。あたしね、ユスラちゃんと相談してキョウくんの快気祝いを計画しているの。よかったら、あなたも参加しない?」
「でも……自分は……、」
「気持ちはわかるわよ。原因はあなた自身にあるから、気が引けるのでしょう? でもねぇ、キョウくんはあなたを責めなかったはずよ~。こんなこと云うと本人は否定するだろうけれど、キョウくんって実は器が大きい男性だと思うのよねぇ。うふふっ、だから安心しなさい。レッドくんは、なにも悪くないわ。」
「アミーユ様……。」
恭介という人間を、きょうまで見てきたアミィの言葉には説得力がある。レッドは、きゅっと口唇を結び、いつか自分も、アミィから信頼される存在になりたいと思った。身分や年齢に捉われず、ただ、好きな人をそばで見守りたい。それは、現在の恭介がジルヴァンに抱く感情とそっくりだった。ひとつだけ異なる点は、レッドの場合、性的欲求が最初から強い。アミィに対して下半身がゾクゾクした。
コスモポリテス城で働き始めたばかりのレッドは、同室の内官による陰湿な行為により自我の崩壊を防ぐ手段として、女体を愛でるようになった。美しい肉体の全裸集は、至って健康的な活力を与えてくれた。だが、アミィに心を奪われてしまったレッドは、紙の中の人間では満足できなくなっていた。
「さぁ、行きましょ。きょうも元気に働いて頂戴ね~。」
アミィの笑顔が眩しいレッドなのである。
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