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第273話
しおりを挟むアミィが姿を見せるなり、レッドの様子がおかしい。手にした伝票が指のあいだをすり抜けてバサバサ床に落下しても、ぼんやりしている。
「レッド?」
傍らに立つ恭介が声をかけても、ぴくりとも動かない。その足許に散らばった伝票を恭介が拾い集めていると、ハッと我に返った。
「あぁっ、キョースケ様、すみません! 自分がやるっす!!」
あたふたとするレッドを見たユスラとアミィは「はてな?」と首を傾げたが、身を低めていた恭介は事情を理解した。レッドから、コソコソと耳打ちされたのである。
「キョースケ様、キョースケ様。あの御方は誰ですか? 執務室に来たってことは、同じ内官っすよね? なんで衣服がちがうンすか?」
「……アミィなら、ああ見えて王子の側仕えを兼任してる文官なんだよ。だから内官とはちがうぜ。とは云っても、たいていの平日は事務処理を担当しているから、オレたちの上司になる。」
「アミィって、なんすか?」
「アミーユの愛称みたいだが……。」
「アミーユ様が、アミィ様かぁ……、」
「うん? おい、レッド。そっちに落ちてる伝票を拾ってくれ。……レッド?」
完全に手は止まっていたが、視線だけはアミィを追っている。しかも、なぜか妙に真剣だ。恭介は(なんだ?)と疑問に思ったのも束の間、「おい、アミィは男だぞ?」と、小声で釘を刺した。むっちり体形でオネェ言葉を使うアミィを、女性と勘違いしたレッドは、すっかり見とれていた。至近距離にいる恭介の声さえ耳に届かない。
(……この展開は意外すぎるだろ。レッドのやつ、本気でアミィに惚れたのか!? ……まぁ、アミィは受け身の体質だろうから、男役の努力次第で交際は可能だと思うが……って、オレこそなに考えてンだ!?)
恋が芽生える瞬間に立ち合ってしまった気分の恭介は、うっかりレッドを応援した。もともと、同性愛に対する偏見はない。レッドの気持ちなど露知らず顔のアミィは、いつもどおり大量の伝票を見て、キィキィ騒いでいる。レッドのほうが歳下だが、案外、お似合いのカップルになりそうな予感がした恭介は、つい小さく笑った。自身より他者の存在を大切に思えた時、良くも悪くも人間の心は強くなれる。
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