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第270話
しおりを挟むレッドの感情が落ちつくまで、恭介は沈黙した。自分のために誰かが泣く姿は、胸の奥がチクチク痛む。罪悪感に陥るあたり、常識人でありたいと思う反面、これからも外敵をつくりやすい性格だと自覚した。もとより、数字に不正がないか白黒つける仕事柄、人間関係の衝突は避けられず、誤解を招きやすい。
(……こればっかりは仕方ねぇよな。オレは会計士の仕事くらいしか取柄がない。専門職なだけに責任感を持たなきゃ、ただのまぬけな人間になっちまう。……他人の目を気にして不正を見逃せば、仕事がいい加減で済まされちまう。誰かが嫌われ役を引き受けなきゃ成立しねぇんだ。……うん? 待てよ。これっていい口実なんじゃ?)
ふと、恭介はある利点を思いついたので、早速、レッドに提案した。
「なあ、キミは今、どこの室で、どんな立場なんだ?」
「え? じ、自分は2階の備品出庫管理室で、上級内官たちの雑用係っす。……ふだんは掃除とか買い出しとか、鍵当番をやってるっす。」
(出庫管理とは関係ない仕事を押し付けられてるのか? もしくは、わざと適切な仕事を与えない……とか。それって過少要求の間違いじゃね?)
と、内心で突っ込んだ恭介は、レッドに転職を進言した。
「もしキミさえよければ、オレたちの執務室へ来ないか? 経理の仕事なら、オレがイチから丁寧に教えてやれるし、けっこう人手不足だから、キミが移動の相談を上司に持ちかけてくれると助かるんだが……。」
「自分がキョースケ様の室へ!? そんなのは夢のような話っすよ! でも、キョースケ様の役に立ちたいっす!!」
文官に出世する予定がある恭介は、事務内官の後釜(引き継ぎ)をレッドに頼むことにした。最初の内はアミィのように掛け持ちで働くつもりでいたが、恭介の一存だけで決めることはできないだろう。また、レッドはまだ若い。仕事を盾に、不正をはたらく相手を正論でねじ伏せることが可能となるため、自信と成長につなげてほしかった。
(レッドにとって、会計士は天職になるかもしれない。……いつもの明るい調子で事に当たれば極端に嫌われないだろうし、オレより適任だ)
やっと、ひとつの問題を解決できそうな気がした恭介は、無意識に笑みを浮かべていた。
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