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第269話
しおりを挟むアウフヘーベンとは、対立する考え方や物事の見方を変え、より高い次元の解決策を導きだすという昇華法である。もっとも、ある感情ないし欲望を、それぞれが自分の中にあることに気づかず、もしくは排除している場合、行動でしか欲求が解消されないため、議論がすりかわってしまう。
ルシオンと第6王子をめぐる溝は深まるばかりの恭介だが、試験勉強を優先した。両者をふるいにかけた時、ジルヴァンに寄り添える可能性に近づく努力が先決である。
「ふぅ。……お、もうこんな時間か。」
その日、朝から勉学に励んでいた恭介は、腕時計で時刻を確認した。本日はレッドから呼び出しを受けているため、参考書を長椅子の隙間に隠すと、一張羅から内官布に着替えて城に向かった。指定の場所へは、約束の時刻より早めに到着した。
(……ここは、苦い記憶が残る廊下になっちまったな。……右腕も左足も、まだ痛ぇしよ)
医官に処方してもらった痛み止めの生薬は、朝晩2回、服用中である。薄暗い廊下で待つこと10分後、同じ内官布を着たレッドがやって来た。恭介の姿を見るなり、猛ダッシュで接近してくる。
「キョーズゲざま~っっっ!! よくぞご無事でェ~ッ!!」
「レッド? 待て待て、飛びつくな!」
ブワッと涙をこぼして両腕をひろげて見せたレッドに、恭介は咄嗟に身を引いて叫んだ。勢いよく抱きつかれては、けがに悪影響を及ぼす。なにより痛いだけだ。
「落ちつけって。なんで大泣きする必要があるンだよ。」
「だっで、自分なんがのせいで、ギョーズケさまがぁ!」
レッドの興奮度は高いようで、濁音まじりの科白がおかしくて笑えた。
「ギョーズケさまぁ! 自分はいったい、どうじたら!? いっそ、あなたの下僕にしてぐだざいっす~!!」
「おいおい、冗談でもよせよ。だいたい、キミをそんな目で見る奴らが許せなかったから首を突っ込んで、この結末なんだぜ。これからはキミ自身が、もっとしっかりしなきゃダメだ。」
相手が取り乱していると、なぜか冷静な対応ができる恭介は、レッドの肩に軽く左手を添えた。
* * * * * *
※タイトル変更の件につきましては、主人公以外の人間模様の描写が予定より多くなってしまい、改題せざる負えない状況だなぁという判断です。半獣のリゼルも主役を張れる要素を持つキャラクターにつき、もう少し活躍させたいと思っています。恭介とゼニスの冒険は、まだしばらく続きます。最後まで、どうぞよろしくお願いいたします。
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