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第268話〈アウフヘーベン〉
しおりを挟むマイナスをプラスに変える解決法が見つからなければ、あきらめも肝心である。
(……よし。開き直るか!)
いっそのこと負の側面を放置することで、問題が解決する場合も無きにしもあらずである。世の中は、矛盾を抱えるようにできている。恭介は暗鬱な気分を無理やり吹き飛ばすと、カイルや薬を処方しに行った医官が戻る前に、身装を整えた。右腕を袖に通すとき、かなり痛んだが、奥歯に力を入れて耐えた。左足の小指が骨折しているため、皮靴を履くときもズキズキと脈を打つように痛みが走る。
「……くっ、くそがぁ。なんのこれしき!!」
自分で自分を鼓舞しながら帰る仕度を済ませると、医官が先に戻ってきた。痛み止めの生薬を受け取り、早速、水をもらって飲む。
「2、3日は安静にな。傷口が塞がり次第、抜糸をするでな。あしたは包帯を取り替えて消毒をする必要があるぞい。きょう1日は、この部屋に泊まってもかまわんがのぅ。」
「……いえ、帰ります。」
「ふむ、そうか。……ところで、おまえさんが助けた若い内官のことじゃが、さっきすれ違っての。あとで謝りたいと云っておったぞ。それから、お詫びもしたいそうじゃ。これを渡してほしいと預かったわい。ほれ。」
「……ど、どうも。」
渡された紙片には、日時と場所が記入されていた。
(明後日の午後2時、4階の南口……か。うん? そこって、レッドが囲われた場所だよな? あそこは人気がないし、ひとりで待たせるには危険だぜ。早めに行ってやるか……)
カラダのあちこちが痛む恭介だが、呼び出しに応じることにした。
(レッドにも、余計な心配をかけさせちまってるだろうからな。会って話をしないと……)
レッドを連れ出し、恐喝まがいの行為をしていた不良共は、恭介を負傷させた時点で刑罰の対象となっている。6人全員は地下牢へ監禁されていた。
その後、カイルからジルヴァンの現状を確認した恭介は(予想どおり、かなりご立腹らしい……)、けがの痛みに耐えながら帰宅した。まだ出勤前で寝室にいたザイールに声をかける。
「ザイール、ちょっといいか?」
「はい。なんでしょうか……? あれ? キョースケさま、なんだか顔色がよろしくないような……、」
引き戸を開けて顔を見せたザイールに、ひとまず、状況を説明した。
「なんと愚かな人たちでしょう! 弱き者を苦しめておきながら、仲裁に入ったキョースケさまを傷つけるとは、赦されません!」
血相を変えて憤慨したザイールの声が、頭にキンキン響く恭介は、不良共には量刑が科せられるはずだと云って、その場を収拾した。怒りがおさまらないようすのザイールは、ひどく恭介の身を案じたが、神殿務めの時刻が近づくと慌ただしく出ていった。
「……みんながザイールみたいに神職者なら、少しは世の中が平和的になるのか? ……そうでもねぇか。中身は結局、人間だもんなぁ。」
非常に富福な人と、非常に貧乏な人では、人間となる状態に至る人格発達の過程が、どうしても異なってしまう。恭介は情念ばかりに動かされてはいけない考えを此度の教訓とした。また、怪我の功名とばかり、丸1週間もの勉強時間を確保でき、この期間に文官試験の追い込みができると前向きに捉えた。
* * * * * *
※お知らせ※
作品のタイトルを[異世会計士の受難]から[恭介の受難と異世界の住人]へ改題しました。
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