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第266話
しおりを挟む大量出血の後、起きあがって喋りすぎた恭介は、頭がクラクラした。少しの吐き気を催す目眩に襲われ、再び寝台へ横になると、カイルが枕もとまで歩み寄った。
「同じ大きさの内官布を調達してきましたので、血で汚れたほうは焼却処分します。お代は結構ですから、帰るときには、こちらを着てください。」
「ど、どうもありがとう……。」
「それから、これも。」
カイルは胸の衣嚢から布巾で包まれたものを手渡した。恭介が手のなかで解すと、勲章バッヂが出てきた。
「あなたが取り返してくれたのか?」
「はい。……どうか大事になさってください。キョースケ様の身は、わが主君たる王子様の所有物でもあります。それをお忘れなく。」
(……ああ、わかってる。……それは十分わかってるつもりだったけど、いつか、こんな事件が起こるンじゃないかと、思ってたフシがあるんだよな。……オレ的に、自分の性格に欠点があるとわかっているからさ。……ごめんなジルヴァン。寝間まで行けなくて。きっと、オレが来るのを待ってたはずだ……)
聞けば、共寝の時刻が待ちきれなかったジルヴァンの命令により、恭介を迎えに行ったカイルは、不良に殴られて倒れる姿を発見して駆けつけた。つまり、悪どい役人を成敗し、勲章を奪還し、レッドを助け、負傷した恭介を医官の元まで運んでくれたのは、カイルだった。
(……この結果は、さすがに参るぜ。……オレひとりじゃ、レッドすら庇えなかったのか。しかも、ジルヴァンの気随に救われたな。カイルを寄越さなければ、今頃、オレはもっと深傷を負っていたかもしれないぜ)
恭介は力不足を反省したが、6人を相手に健闘したほうである。実のところ、右腕の傷はレッドを守ろうとして切られたものだ。さいわい、恭介は左利きにつき、事務内官の仕事に支障はないと思われた。ただ、日常生活が少し不自由になる点は否めず、眉をひそめた。
(ちくしょう……。どうしてうまくいかねーんだ。ひとりじゃなにも出来ない子供みたいじゃねぇか……)
どんな時も、まわりに助けられている。それは素直に感謝すべき事柄であり、恭介は人間関係に恵まれていたが、時折、孤独を感じた。それは自分の正体が日本人であることが原因だった。誰にも打ち明けられない日々が続いていたが、文官試験に合格後、ジルヴァンに白状するつもりである。
(もう限界なんだ。本当はキミに、すべてを話して楽になりたい……)
恭介は、布団の中で身振るいした。
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