恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第256話〈なつかしい俗世〉

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 レッドの自宅は、コスモポリテス城から徒歩20分ていどの場所に建つ、石製の集合住宅の2階だった。城下町のにぎわいが、微かに聞こえてくる。

「さ! ウチの中、散らかってるっすけど、どうぞ!!」

 残業を早めに切りあげた恭介は、レッドと肩を並べてここまでやって来たが、気前よくガチャッとひらかれた扉の先に、めくるめく世界を発見し、ピシッと、かたまった。

「ん? キョースケ様、どうしました? あっ、ああーっ!! 姉ちゃん、お客様の前で何やってんだよ!!」

「何って、いつものことじゃない。おかえり、レッド。そっちの内官ひとは誰? あらやだ! その胸に付けてるのって勲章? それに、けっこうイイ男!」

 ズイッと顔をのぞき込まれた恭介は、目のり場に困り、後退あとずさりした。レッドが「アネキっす」と冷や汗まじりに紹介するが、彼女は半裸はんらにつき、まっとうな男は鼻血を噴く場面かもしれない。それも、巨乳である。豊満ほうまんな乳房を至近距離から目撃してしまった恭介は、気まずいとばかり顔をそむけたが、奥の部屋から出てきた新たな人物は、全裸ぜんらで恭介に近づいてくる。

「んん~? なんだ、おまえは。見ない顔だなぁ。あぁ~ん? 髪が黒いな? ほう、確かに面構ツラがまえは悪くないな。」

(うおおぉ、マジかよ。デッケェな!!)

 半裸のアネキ、、、を押し退けて現れた丸裸まるはだかの大男は、恭介のあごを指ですくいあげると、こちらの顔立ちをじっくり観察した。上背うわぜいは武官のボルグより高く、クルッと背中を向けると筋肉質で、ずっしりとした四角い尻が丸見えだった。衝撃の展開は更に続く。玄関から一歩も動けずにいる恭介の元へ、次から次へとレッドの家族が姿を見せた。

「こんばんはー。おにーさん、だれだー?」
「キョースケ様、こいつは弟っす。」
ぱだかだな……)
「レッドにぃ、おかえり!」
「キョースケ様、こっちは妹っす。」
(だから、なんで服を着てねぇんだよ!? せめて下くらい隠してくれ……)

 レスレット家は裸族らぞくなのか、来客に平然と素肌をさらす。部屋に案内された恭介は、(まさか、オレにも脱げとか云いださねーよな?)と、少し不安になった。それが現実味げんじつみを帯びたのは、レッドが内官布ないかんふを脱いで、着替えを始めた時だった。

「驚かせてすんません。ウチ、変わってますよね。家族みんなあんな感じで、衣服ころもは仕事着とか余所行よそいきとか、外出する時くらいしか着ないンすよ。」

 云うそばから、レッドは恭介の目の前で全裸になる。さすがにそのままでは恰好かっこうがつかないと思ったらしく、ガウンのような薄い生地にそでを通したが、「キョースケ様は開放的なの嫌いっすか?」などといてくるあたり、レッドも裸族の一員なのだろうと思われた。

「それは、時と場合によるだろう。」
「あっ、そっか! 自分のウチなら、何をやっても許されるっすもんね。へへっ。キョースケ様って、やっぱイイ男っすよね。なんていうか、ちゃんと言葉を選んでるところが大人おとなっす!」

 レッドは照れ笑いをする。恭介は、その足許あしもとに積み上げてある書名に目を凝らした。

(人間性弱説、罪深い絶対愛アガペー、はだかの学校、混沌こんとんする快楽、生殖と性交、豊かな肉体……。全部、微妙な書物だな……)

 将来の準備期間として、性的な事柄を学ぶ機会は重要な意味をもつ。集団生活の中で逸脱いつだつ行為に走らず、健康的な判断で悪事を回避する方法を身につけておくことで、責任や義務といった概念が備わるものだ。

(難しいことは、少しずつ理解すればいい……。まずは欲望のかたを知って、痛みとか失敗とか、そういうなやましい体験があって、心が成長するンだ……)

 恭介は性に関する書名から、人欲のことわりについて真面目に考えた。

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