恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第249話

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 〈君影堂きみかげどう〉へ足を運んだジルヴァンは、ルシオンの言動がに落ちなかった。カイルに対する態度に違和感があり、疑問に思うことはたくさんあった。しかし、思い切ってたずねてみても、明確な返答は寄越よこされない。仕方なく、子どもながらに思考しこうをめぐらせた結果、カイルの件は、いったん保留ほりゅうすることにした。世間話をする気分ではなかったが、ルシオンが好きな物事ものについてたずねると、重たく感じた空気は徐々じょじょかろやかになった。

 生殖機能が発達したルシオンは、なにも同性愛者というわけではない。のちに幾人いくにんもの情人イロと性行為におよぶが、男女比率に大差はなかった。つまり、幼いジルヴァンに固執こしつした発言や行動の意味は、打ち消されている。当時、カイルへの罪悪感ばかりにとらわれた第6王子は、やがて13歳になり、成人の儀がおこなわれると、抑圧よくあつすべき自我と社会的な適応力について学んだ。

「……すると王子様は、ルシオン様の自我を、昇華するかたちで受けれたのですね。」

 18歳になったジルヴァンを護衛する武官カイルは、33歳になっていた。城を追放された後は西緯にしへと向かい、刑期満了まで農作地帯で規則正しい生活を送った。ルシオンは、カイルが罪をつぐなう機会を与える約束をジルヴァンとわしていた。やがて、“復職ふくしょくせよ”との令状がカイルの元へ届いたのは、10年近く経過した後だった。
 満たすことができない欲求の制御せいぎょは、非常に難しい。目標が高いほど苦悩くのうするもので、実現不可と認めてしまえば、破壊的な、あるいは性的欲求によって、自己実現を図ろうとするものである。

「あれから、わたしなりにずいぶん考えました。ルシオン様に敵視された理由は、至って単純だったのかもしれません。……わたしは断じて、受け身にはりえませんからね。」
 朝の城内を移動する中、ジルヴァンはカイルと会話した。
われにはまだ、せぬがな。」
「……気に喰わない相手ならば、その主従関係を絶つことで、自我の崩壊を回避したのでしょう。まともな関係を築くため、防衛機制が働いたのです。……その後、ルシオン様とは順調ですか?」
「順調なものか。この前は庭園でいきなり接吻キスされたぞ。」

 義兄が努力や長い時間を要しても、ジルヴァンが恋愛対象として意識することはなかった。互いに王族の血を引くため、現在は適度な距離を保っている。

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