247 / 364
第246話
しおりを挟むジルヴァンにできることは少ない。だが、何もできないわけではなかった。ひとまず計画は成功し、〈花序の間〉に戻ったジルヴァンは、ふたりの女官から『よくぞご無事で』『カイル武官とは会えましたか?』と同時に話しかけられた。
『ふたりともありがとう。ぼくは、なんともないよ。カイルにも会えた。』
時刻は夜更けにつき、ジルヴァンは、あらかじめ敷かれた布団へ横たわった。それから、女官に命令する。
『あしたの昼、シオンのところに行く。朝いちばんに〈君影堂〉の女官さまたちに報せておいて。』
『……承知しました。……お休みになりますか?』
『うん。おやすみ。』
『お休みなさいませ、王子様。』
女官は燭台の灯りを確かめてから室を出ていき、扉の両脇に控えた。第6王子の言動には幼さゆえの危険が伴っていたが、ジルヴァンの信念を支えることが務めでもある。たとえ利己的な感情が働いていたとしても、その側面を指摘せず、個人の欲求や権利を尊重した。それは、ルシオンに仕える女官も同様につき、個人主義を重んじる王宮で刺激的な接触はつきものだった。王族関係者は、頭の切れる人間ばかりである。ジルヴァンもまた、環境からの影響により、越えてゆくべき課題と向き合う必要があった。
『……カイル。ぼくとの約束を忘れちゃだめだからね。何年後でもいいから、かならず会いにくるんだからね。……今までありがとう。』
カイルが無実を主張せず、第6王子に『さよなら』を告げる理由は、コスモポリテス王国への忠誠心の現れでもある。カイルの家系は代々、優秀な武人を輩出していたが、今回の件で親族に泥を塗ってしまった。悲しいことに、ジルヴァンはカイルの追放刑を認めるしかなかった。ただし、ルシオンに面会して、城を追い出された後のカイルの身の安全と、生活の場を相談するつもりだった。ルシオンの目的はカイルから第6王子付きの護衛役を剥奪することにつき、罪人の烙印を押された今、これ以上の尋問は不適切である。本来ならば、ジルヴァンが策動するまでもないが、ルシオンにどうしても聞きたいことがあった。
だいいちに、武官の教訓に接触の禁止とある。護衛を担当する相手に指一本触れず、カラダを張って危険から身を守る。それが基本であり、敵側の勢力に応じて、身体に手を出すことも容認されたが、カイルがルシオンに対しては行った制止行動は、抑圧された欲望を刺激し、排除すべき人物と見做されて当然の横槍だった。
カイルが投獄された翌日、ジルヴァンは国王への挨拶をすませ、午前中の講義が終わると、ルシオンの元へ向かった。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる