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第242話
しおりを挟むジルヴァンを護衛する武官のカイルには、ひとつ気がかりなことがあった。
『第6王子に会いに来た。取り次げ。』
と、当たり前のように〈花序の間〉に顔を見せる男は、庶子のルシオンである。現在16歳の彼は、側室の出身でありながら、王位継承権をもつジルヴァンと、積極的な態度で交流を深めていた。
『少々お待ちを。』
扉の前にいたカイルは女官より先に発言し、午後の講義を終えて昼寝をしようとするジルヴァンの元へ歩み寄った。
『王子様、ルシオン様がお見えです。……どうされますか。』
『えっ、シオンさまが来たの? もちろん通していいよ!』
『しかし、今から横になるところだったのでは……?』
カイルは床に敷いた布団を目にとめ、少しだけ眉をひそめた。いっぽう、ジルヴァンはなんの警戒心も持たず、『いいのいいの、早く呼んできて』と笑顔で催促する。ふたりが談じ込む際、カイルも室内の隅に立っていたが、ルシオンの口から出る言葉の数々は、教育的にいかがなものかと思われた。しかも、時々わざとらしくカイルへ視線を送るため、妙に気に障る存在だ。しかし、規則正しい生活を送るジルヴァンにとって、ルシオンとの刺激的な会話は、日常の愉しみが増えたと思い込んでいる。
『ほら、カイル。ボサッとしてないでシオンさまを呼んできてってば!』
『……御意。』
屈託のない表情を向けられたカイルは、逆らう気力が萎えた。云われるがまま、ルシオンを室内へ通すと、数メートルほど離れた位置で待機する。ジルヴァンは布団の上で、元気にはしゃぐ。
『シオンさま、いらっしゃい!』
『お邪魔します、ジル様。……おや? どこか具合でも悪いのですか?』
『え? なんで?』
『まだ陽が高い時分より布団を敷かれているものですから、もしやと思って……、』
『これはちがうよ。ひまだったから、お昼寝しようと思ったけど、シオンさまが来てくれたから、目が覚めたよ! ねぇ、きょうはどんな話を聞かせてくれるの?』
ジルヴァンと膝を突き合せて腰をおろすルシオンは『そうですね』と考えるフリをしてから、スッと、右腕を伸ばした。後方に控えるカイルには、ルシオンの手先まで確認することはできない。
『シ、シオンさま……?』
突然、衣服の上から股のあいだを探られたジルヴァンは動揺したが、ルシオンに『しぃ』と、耳打ちされた。
『つかぬことをお訊ねしますが、医官より性の変化について、どこまで教わりましたか。』
『変化って?』
『いわゆる同性間でも、親密な関係を築くことができるんです。……忠誠ではなく、信頼を基礎として相手に身を捧げることは、必ずしも悪徳とは限らない。』
裾の下で、指が這っている。肌へ直に触れられたジルヴァンは、咽喉が詰まって、うまく声がだせなかった。太腿の内側へ向かってきた指は、小さな一物を捉える。
『今すぐその手をお離しを。』
ジルヴァンが身動きできずに困惑していると、異変に気づいたカイルが制した。
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