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第241話〈感情的な刺激語〉
しおりを挟むジルヴァンは13歳の時、現在の寝間を王室から与えられ身を置くようになるまで、〈花序の間〉という六畳ほどの室で暮らしていた。朝いちばん国王への挨拶を済ませた後、専属の講師が順番にやってきて、学問などの教育を担当した。休日は適度な運動能力を養うため外出も許されたが、常に2人の女官と武官が付き添い、睡眠中も交替しながら扉の前に4人は必ず待機するため、ひとりきりになる時間は、用を足すか、湯を浴びる時くらいである。
『……う~ん、なんだか息苦しいなぁ。』
現在、9歳になったジルヴァンは、午後の勉強が終わるなり『は~っ』と、大きなため息を吐いた。決まったことがくり返される日々は、ひどく退屈に感じた。唯一の楽しみは、ふた月にいちど催かれる〈加味宴〉という、王室行事への参加だった。王宮の料理番が新作を披露して、身分の高い人間などをもてなす席に、王妃や10歳以下の幼い王子も呼ばれる。王子の役目は、甘い菓子の試食を担当することで、ジルヴァンは甘いものが好物だった。
『あっ、そうだ。来月は宴があるんだ! またお菓子が食べられるね。楽しみ~。』
『王子様、食事の後は必ず歯磨きをしてください。昼食の後、磨いていませんね。』
控え目に発言する男が、室内の隅に立っている。〈カイル=ラシーク=ブローバ〉といって、幼少期のジルヴァンを護衛する武官のひとりで、24歳の若き剣士だった。赤い髪と灰色の眼は、意志の強さを感じさせる。王室専属の武官である全身黒衣の着方は、前衿を右側に覆う和服と似ていたが、剣は帯の飾りにさげず、常に左手で握っている。
『え~、カイルは知ってたの?』
『はい。わたしは国王命令で王子様を常に見張っていますから。』
『めんどくさいな~。』
『いけません。しっかり磨いてください。』
『わ、わかったよ。磨けばいいんでしょ! 道具を用意して!』
『かしこまりました。』
第6王子にカイルと呼ばれた武官は、扉の外に控える女官に声をかけた。ジルヴァンの身の安全と健康が最優先されるため、従者がそばを離れることは滅多にない。
* * * * * *
※今話から少しジルヴァンの過去編となるため、科白は『二重鉤括弧』で表記しています。
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