恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
241 / 364

第240話

しおりを挟む

 恭介とザイールが軽く晩酌をする頃、ルシオンの住まいへ案内されたアレントは、豪勢な間取りの部屋でくつろいでいた。

「シオンめ。庶子とはいえ、派手な暮らしぶりではないか。」
「それほどではありませんよ。」

 国王の側室から生まれたルシオンは、コスモポリテス城の裏手に並ぶ、親類が身を置くため建てられた別棟で生活を送っている。独立した建物には名前が付いており、ルシオンの住まいは〈君影堂きみかげどう〉と呼ばれていた。鈴蘭すずらんの別名で、可憐に咲く花が、遠い日の恋人の面影おもかげを連想させるところから、そんな異名となったようだ。また、初冬まで咲き残った菊花がさらにながらえると枯菊かれぎくとなり、そのあわれな風情を見た故人は〈凍菊いてぎく〉と呼び、国王の寵愛が尽きためかけが住まう建物の異名となっていた。ルシオンとアレントの母親も、〈凍菊いてぎく〉で暮らしている。庶子の決まり事で、母方ヘは1週間にいちど挨拶をする必要があり、ルシオンは〈凍菊の間〉にかよっていた。その途中には、城内の庭園に続く秘密の通路がある。

「……シオンよ、母上ははうえ息災そくさいか。」
「ああ。あの方は無病で健康そのものだ。これといって、周囲に警戒されるような野心など、なにも持たぬ女性ひとだからな。」

 円卓テーブルに向かい合って座り、酒をみ交わす兄弟は、どちらも未婚である。兄のアレントは神殿プロメッサに従事するためコスモポリテス城へ戻ったが、ルシオンにはまだ2年近く猶予ゆうよがあった。王位を継ぐ権利のない庶子は、礼制(伝統的規範)にかなう婚姻関係を結ぶ必要はない。

「……おまえは、あの頃と変わってないようだな。」
 
 ぽつりと、アレントがつぶやく。ルシオンは酒盃を膳の端へコトリと置くと、「ふふ」と笑った。あの頃とは、ルシオンが15歳の時である。8歳のジルヴァンが挨拶に顔を見せた場所は、城内の庭園だった。

 ひと目で、手に入れたいと思った。わずか8歳でありながら、第6王子の内部から立ちあがってくる魅力と、無垢むくなる存在感は、ルシオンの欲望を掻き立てるには十分だった。

    * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...