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第239話
しおりを挟むアルトゥルとは、ザイールが命名したチンチン人形のことである。以前、専門店で恭介が選んだ花柄のネームタグが、タマタマに付いている。〔第46話参照〕
(まぁ、個人の趣味は自由だしな……。アルトゥルの見た目は微妙だけど、ザイールが気に入ってるなら、オレがどうこう云うのは間違ってるだろうし、ぬいぐるみのチンチン人形くらいなら、かろうじて許容範囲だ……)
グラスを傾けながら思考をめぐらせる恭介は、ザイールの顔色に注意を払った。いくらアルコール度数が低いとはいえ、酒に弱いザイールは、酔うとキス魔と化す。見境なく口唇を吸われた過去がある恭介は、一杯かぎりでグラスを机に置いた。ザイールは床に膝を折って座り、ぼんやりと窓のほうを見つめている。
「なぁ、ザイール。訊いてもいいか?」
「はい、どうぞ。」
「さっき云ってた、“カイストリヒ”ってどういう意味だ?」
「それは、司祭のことです。大神官より高位の祭祀王で、神殿では教理の指導を行います。数年ごとに王族から輩出されますが、アレントさまは次期候補として名前が挙がっていますので、神官のあいだでは有名な御方ですよ。」
「司祭ってことは、やっぱ霊的な能力とか持ってるのか?」
「そうですね……。わたしは神を信じて奉仕する身ですから、神通力はこの世にあると思います。」
「そっか。」
「お役に立てましたか?」
「ああ、サンキュ。」
恭介が笑顔を浮かべると、ザイールはパッと、うつ向いてしまった。その動揺に気がついた恭介は、かえって申し訳ない気持ちになった。しかし、ザイールにこれほど意識されるとは、予想外でもある。まさかとは思いたいが、下半身に原因がありそうな予感がするため、素直によろこべなかった。
(ただでさえ、ザイールはチンチン人形を大切にしてるわけで、オレの股間を見たときの反応も異常だったし……、下品な結論かもしれないけど、オレになら何をされてもいいとか思ってそうで、こっちが不安になるぜ……。頼むから変な気は起こしてくれるなよ? オレには、好きな王子がいるからさ……)
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