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第236話
しおりを挟むルシオンに会うことが恭介の目的につき、アレントへ背を向けると、耳もとにフッと、息を吹きかけられた。驚いて振り向くと、至近距離にアレントの顔があり、互いの口唇が触れそうになる。ギリギリのところで、恭介はサッと身を引いた。
(あ、あぶねぇ!! 寸止めかよ!!)
「ちょっと、アレントさん! なんの真似ですか!?」
「さん? ……なんぞ堅い響きだな。アレンと呼ぶことを特別に許してやる。なんせ、キョウスケは、王族が世話になっている情人だからな。それに、厭味のない饒舌ぶりも見事だった。易師を前に、大した度胸である。なかなか気に入ったぞ。」
「は? アレントさ……、アレン?」
「そうだ。アレンだ。キョウスケよ。以後、敬語も必要ない。ただし、公の場では礼を尽くせ。」
「……わかりま、……わ、わかった。」
(ったく、ルシオンもアレントもシグルトも、いちいちオレに関わってくれるよな……。すっげぇ疲れる……)
「ところでシオン。おまえはキョウスケを毛嫌いしているようだが、なにゆえだ? この者の運勢は今まさに、大事な時である。むしろ、逸材の暗示さえ読み取れる。蓄えた力を発揮する場を与えてやらねば、王宮にとって損失かもしれぬぞ。」
アレントの口調は、ひとつひとつの言葉に強弱をつけてしっかり発音するため、名前の呼び方も“キョースケ”と間延びしない。恭介自身も、すぐにそれと気づいたが、コスモポリテスの人間はカタカナの氏名を持つため、提出や保管が必要な書類には“イシカワキョースケ”と記すようにしていた。
(アレンは、オレのこと高く評価してるな……。占いとか、あんまり信じてねーけど、こうもきっぱり断言されると、逆に期待を裏切れないというか、余計な口出しができなくなるぜ……。ルシオンはどう返す気だ?)
アレントは、初対面でありながら恭介を擁護するため、ルシオン的には不愉快な状況である。恭介は、浮かれてしまいそうになる気持ちを払拭した。
「……アレン。予言者にでもなったつもりか?」
「これでも易者の才を磨き、確固たる実力を備えている。……シオンよ、消化器系の病気に注意せよ。持病があるならば、悪化する前に医官と対策を講じることだ。」
「……ふっ。アレンの予言は当たるからな。気をつけるとしよう。」
「予言ではなく助言だ。」
「どちらも同じこと。いつまでも兄上の妄言に惑う愚者ではないゆえ。」
(うん? やっぱりふたりは兄弟なのか! あちこち似てるもんな……)
ルシオンとアレントは不仲そうに見えたが、恭介は黙って会話に耳を傾けた。意外なことに、先に穏やかな表情を見せたのはルシオンのほうだった。
「久しぶりの再会だというのに、情人に邪魔されたな。……兄上、別棟へ。上等な酒と食事を用意させてあるのだ。まずは湯を浴びて、長旅の疲れを癒やされよ。」
「……ああ、そうさせてもらおうか。」
ルシオンは話題を変えたが、アレントからクイクイッと人差し指で手招きされた恭介は、(なんだ?)と思いつつ、二、三歩近づいた。
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