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第233話
しおりを挟む庭園で、ルシオンと見知らぬ男を間違えた恭介は、ひとまず不用意な発言を詫びた。
「すみません。知ってる人かと思い、呼び捨ててしまいました。」
軽く頭をさげると、相手の目つきもいくらか和らいだ。恭介は内官姿だが、男は私服のような恰好に見えた。濃い青色の上下に、長い腰紐を巻いている。鮮やかな紅色の花が刺繍されており、飾り紐には紫色の宝石があしらわれていた。髪や眼の色はルシオンと同じ濃褐色につき、遠目から見るとよく似ていた。身長も恭介より少し高い。骨格さえ、まるでルシオンのようである。髪型は微妙に異なるが、恭介の第一印象は(双子か?)だった。
「……自分は事務内官の石川恭介と云います。あなたは、どちらさまですか?」
なかなか相手が名乗らないため、先に自己紹介をした。もっとも、恭介が着ている内官布を見れば城で働く人間であることくらい、容易に察しはつく。さすがに握手はないだろうと思い佇んでいると、長い沈黙の後、ようやく男が口をひらいた。
「俺は、アレント=ラフェテス=イアンレッドと申す。いちおう王族のはしくれだが、身分など気にせずともよい。目つきが悪いのは生まれつきだ。許せ。……しかし、おまえのような〈色〉は初めて見るな。」
(アレントね。覚えておくか。……情人? なんか発音がちがうような……。あっ、黒髪のことか?)
やはり相手は王族のようだ。ルシオンは庶子だが、国王が認知した私生児であることに変わりはない。どことなく、ジルヴァンの義兄と容姿が似ているため、恭介は少し警戒しつつ男の視線を気にした。横髪は茶色に染めていたが、つむじから伸びる髪は黒いため、違和感は隠しきれない。コスモポリテスにおいて、黒髪の人間は恭介ぐらいしか存在しないらしい。アレントは、先程から恭介の左手に目を留めている。
(……本当に王族なら、内官ごときのオレが高価な輪具を嵌める意味を、正しく理解できるはずだよな……)
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