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第232話〈恭介の早とちり〉
しおりを挟む「……うん? どうした、ジルヴァン? まだ起きるには早いだろう?」
「……うむ。しかしキョースケよ、なぜ、そんなところにいるのだ?」
「ああ、この柊の花を見てたら、ウトウトしちまったようだ。」
ジルヴァンの声で目を覚ました恭介は、花瓶を指差して立ちあがると、寝台まで歩み寄った。ジルヴァンと添い寝する行為は身の危険が伴うが、すでに夜は明けており、じきに恭介は日常生活に戻らなければならない。
(せめて今だけは、誰よりもキミのそばにいるよ……)
ジルヴァンに寄り添って躰を横たえた恭介は、指先で頬を撫でた。
「……キョースケ、」
「ん?」
「貴様の祝賀式典でのようすはアミィから聞いたぞ。よくぞ努めあげたな。……貴様の昇格を嬉しく思う。」
(アミィから? 変なこと云わなかっただろうな……)
「……サンキュー。もらった勲章を持ってきたんだ。あとでジルヴァンにも見せようと思って、」
円卓の上に置いた勲章を取りに行こうとすると、ジルヴァンから絹衣の裾を、ぎゅっ、と掴まれた。
「……ジルヴァン?」
「行くでない、キョースケ。吾のそばにおるのだ。」
「あ、ああ。わかった……。」
(ジルヴァン? なんか、やけに甘えているような気が……)
枕を共有する第6王子は裸身のままにつき、風邪を引かないか心配になった恭介は、ジルヴァンの肩を抱き寄せた。
(……この温もりだけは大事にしなきゃな。オレは、キミのためにここにいるんだ。……これからも、ずっと……)
しばらくの間、ジルヴァンを腕の中に閉じ込めた恭介は、出勤時刻の前に退出した。
「じゃあな、ジルヴァン。」
「……うむ。精進せよ、キョースケ。」
寝台から抜け出た恭介を、ジルヴァンは上体を起こして見送った。
(……とにかく、ルシオンとは、ちゃんと話し合う必要があるよな。一方的にこっちが睨まれてる状態だし、そんなの、納得いかねーしよ……)
朝陽が射し込む廊下を歩きながら、恭介は情人である前にひとりの男として、ルシオンとの関係に決着をつける覚悟をきめた。
(これって慢心になるのかね。……さすがに知識や才能に自信はねぇけど、仕事ぶりなら勲章をもらえるくらい認められたってことだし、少しは胸を張っていいのかもな。ジルヴァンの力添え感はあるけれど……)
立場の昇格は、名誉なことである。恭介は勲章を手に、ほんの少しの自信を身につけ、きょうもまた、執務室で大量の伝票を処理した。
その日の夕方、城内にある庭園へ足を運んだ恭介は、ルシオンの姿を探した。そう簡単に出会えるとは思っていなかったが、植物に水を差す人影を見つけて歩み寄った。
「ルシオン?」
無礼を承知で呼び捨てると、振り向いた人物から鋭い目つきで睨まれた。
(ルシオンじゃない。誰だ?)
花壇の前には、初めて見る顔の男が立っていた。
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