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第230話
しおりを挟む恭介と共に完全燃焼したジルヴァンは、すやすやと眠りについた。その寝顔は穏やかに見えたが、第6王子の寝相には少々問題があった。恭介は絹衣に袖を通すと、枕もとの洋燈を元の場所へ戻し、円卓の椅子に座った。
「……ふぅ。」
情人としてではなく、恋人として性交渉に及ぶ恭介は、ジルヴァンへの接し方に欲が湧いてきたが、現在の立場を考慮してもっと自制すべきだと反省した。
(久しぶりだったから、つい欲張っちまったな……。あんなに深く挿いるとは思わなかったぜ……)
ジルヴァンの体内領域が以前より柔軟性を増していたことに気がついた恭介は、これまでにないほど深く突いてしまった。無意識のうち、細胞レベルで恭介からの刺激を受け容れるジルヴァンは、肉体に変化の兆しがあらわれた。互いに新たな道を開拓した気分に陥るが、あまり余韻に浸ってもいられない。
(……どうも、気になるぜ。なんで柊の花がジルヴァンの寝間に飾ってあるんだよ?)
恭介は花瓶に目をとめ、ルシオンの企みが何かあるとすれば、推測の域を出ない。しかし、ルシオンの言動は恭介に対して穏やかではないため、意味もなく柊の花をジルヴァンに届けるとは思えなかった。とはいえ、花言葉について詳しくない恭介は、扉から顔だけ出して待機している女官に訊ねた。
「ひいらぎの花言葉ですか?」
「ああ。知ってたら教えてくれないか?」
「確か……、“あなたを守る”とか“用心深さ”とか、そんなような意味が含まれていたかと思います。」
「……へぇ、なるほど。……花を持ってきたのはルシオンか?」
「はい、そうです。3日ほど前に、こちらへお見えになりました。」
「わかった。サンキュー。」
「さ、さんきゅう?」
「うん? ああ、どうもありがとうって意味なんだけど……。」
「初めてお聞きする言葉ですが……、」
「なら、忘れてくれ。おやすみ。」
「はっ、はい。おやすみなさいませ。」
恭介が会話を切り上げて扉をしめようとすると、女官は律儀に深々と頭をさげた。日常会話の流れで何気なく英語を口走ると、通用する場合も多かったが、先程のような反応が返ってくる時もあった。
(……なんかモヤモヤするな。こうなったら、ルシオン本人に確認してみるか。庭園に行けば、そのうち会えるだろうし。……また厭味を云われそうだけどな……)
何事もハッキリさせたい性格の恭介は、柊の花からジルヴァンの寝顔へ視線を移すと、微かに眉をひそめた。いざとなれば押しに弱い受け身の性質が懸念される。ジルヴァンとルシオンの関係は、恭介が思う以上に複雑だった。
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