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第217話〈黒い夕暮れと夜〉
しおりを挟む直に訪れる静かな夜をまえに、恭介は、嵐のような強い風に吹かれている気分だった。現在、かなり面倒な展開に陥っている。
(……マ、マジか。よりによって、なんで第4王子に見られちまうンだ。……最悪だ)
と、心の中で思ったが、ジルヴァンの義兄〈ルシオン〉にバレるより少しはマシかと、考えを改める余裕が生まれた。シグルトに対して、やましいことはない。ただ、相手は王族という立場につき、本来、恭介は質問には即座に答え、頭をさげるべきだった。数十秒ほど沈黙が続くと、シグルトの護衛官が恭介に向かって「ひざまずかんか」と、注意する。素直に従うつもりが、身を低めた瞬間、シグルトに制された。
「かまわぬ。こいつは情人だ。……見るがいい。左指に、王族の所有物であることを示す輪具を嵌めているであろう。名を、イシカワキョースケといって、第6王子が世話になっている。」
「はっ!? こ、これは、大変ご無礼をいたしました。どうかお赦しください! イシカワキョースケさま!」
声高に謝罪された恭介は、「いや、気にしてない」と、受け流しておく。どうあっても状況が不利な点は変わらない。いくら情人とはいえ、第4王子に隠し事など、できるはずもなかった。仕方なく参考書を台の上に戻すと、シグルトは、くすッと微笑した。
「やはり、侮れぬな。実に興味深い男だ。」
「……オレは、そんなたいそうな者じゃない。」
「無論、承知している。ここへくる途中、神殿に立ち寄った。おまえの身分が私奴とは、少々、意外であったぞ。」
(私奴か……。それはザイールが間違えて登録した結果なんだが、似たようなもんか。オレはまだ、平民証書をもらえてねぇからな……)
私奴とは、コスモポリテスでは身分が低い者を意味するだけでなく、出自不明といった解釈も組み込まれる。だが、シグルトへ個人情報を打ち明けるほど、恭介は信用していなかった。
(オレが別世界の人間だってことは、いつか、ジルヴァンにしか話さない。それまでは、誰にも秘密だ……)
恭介は沈黙し、この難局をどう乗り越えるか思案した。
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