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第216話
しおりを挟む朝早く、シグルトの寝間から王宮の執務室へ出勤したユスラは、扉の鍵を開けようとして声をかけられた。
「よう、ユスラくん。おはようさん。」
「キョースケさん、おはようございます!」
背後から、同じ内官布を着た恭介が歩み寄ってくる。
「きのうは休んじまって悪かったな。」
「そんな、とんでもありません。体調は回復されたのですか?」
「ああ。頭痛がひどかっただけで、薬を飲んで寝たら1日で治ったよ。」
「それは良かったです。」
ユスラは仕事用のバッグのほか、胸に文官試験の教本を抱えていた。恭介の視線に気づき、補足する。
「昨夜、シグルト様の共寝に呼ばれたのですが、せっかくだから勉強をさせていただきました。今朝は、その帰りなんです。」
「そうか……。」
と、恭介は淡淡とした相槌を打つ。ユスラが第4王子の情人であると認識しているため、共寝という言葉を聞いても驚かない。それに、ユスラとシグルトの関係は表向きの間柄につき、性的な既成事実は何もない。恭介とユスラは互いの立場を考慮して、むやみな言及は避けていた。
「ふたりとも、おっはよー! キョウくん、元気になったのぉ? 無理は禁物よ~。」
「おはようございます、アミィさん。もう、なんともありませんよ。」
執務室に、いつもの3人が集まると雰囲気が明るくなった。すっかり馴染み深い顔ぶれだが、個人的には謎の部分が多かった。ふだんどおり仕事をこなすうち、アッという間に日が暮れた。アミィとユスラが退出したあと、恭介は作業台で試験勉強を始める。文官を目ざす意志をジルヴァンやザイールに打ち明けておらず、独学で挑む予定だった。
文官試験は3年にいちどしか実施されないうえ、年齢制限があるため、どうあっても合格しなければならない恭介は、執務室へ向かって歩く足音に気づくのが遅れた。ガチャッと両開きタイプの扉が左右へひらくと、ハッとして参考書から顔をあげた。
「シ、シグルト……!?」
「ほう、ここが事務内官の仕事部屋か。……埃くさいな。」
まさかの人物が共をつれて入室してくる。恭介は慌てて参考書をうしろ手に隠したが、第4王子は見過ごさなかった。
「おまえ、文官になりたいのか?」
* * * * * *
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