恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第214話〈シグルトの思惑〉

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 その日、第4王子に呼び出されたユスラは、事務内官の仕事を終えた後、寝間ベッドルームへ足を運んだ。ユスラはシグルトの情人イロだが、共寝の経験はいちどもなかった。もとより、家庭内暴力に苦しむユスラの避難場所として、寝間を提供されており、自宅より安全な空間となっている。

「こんばんは、シグルト様。失礼します。」 
「ああ、はいれ。おまえの勉強机を用意した。好きに使え。」
「は、はい! いつもありがとうございます!」

 扉を背にして頭をさげたユスラは、シグルトの提案により文官試験を受けることが決まっている。王子の期待を裏切って、不合格となるわけにはいかないため、勉強時間の確保は切実だった。持参した教本を机の上に置くと、上等な織物おりものを重ね着しているシグルトは、表衣うわぎだけ脱いで寝台しんだいに腰かけた。

「それで、どうなのだ。順調か、」
「はい。何もかも、シグルト様のおかげです。こんなに勉強に集中できる場所は、他にありませんから!」
「集中とな……?」

 ユスラの率直そっちょくな意見に、シグルトはくすッと笑った。情人イロとして寝間ベッドルームへ身をおく以上、シグルト側にはユスラを好き勝手に扱うことが可能だった。本人の意思とは関係なく、無理やり性行為におよんだとしても、罪には問われない。王族の情人となった者の末路まつろは様々だが、生涯重宝ちょうほうされた人物はひとりも存在していない。

 シグルトは、ユスラが右手の人差し指にめる黄金きん輪具リングへ目をとめた。文官ぶんかん試験に合格した者は御室堂おむろどうを住まいとし、実家に帰る機会は年末年始など、ごく短い期間となる。未成年であるユスラの救済処置として、王族につかえる立場になるよう命じたシグルトにつき、少年に特別な感情をいだいているはずだ。しかし、それが愛情なのか、ただの親切心なのか、判断に悩むところである。ユスラの気持ちも同様だった。

    * * * * * *

※ 2022年4月より成人年齢が18歳に引き下げられましたが、コスモポリス国では20歳をもって成年とします。そのため、現在のユスラ(19歳)は、まだ新成人ではありません。ご了承ください。
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