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第196話〈ふたりだけの夜〉
しおりを挟む明日はゼニスが町へいく。不足しがちな消耗品を買い足すためで、シリルが「ぼくも行きたい!」と挙手をした。
「ぼく、久しぶりに城下町へ行きたいな!」
「それはかまわないが、」
「やったぁ。それじゃあ、今度はリゼルとウルが留守番だね。ふたりとも喧嘩しちゃダメだよ? 仲良くしててね。」
「リゼル、おれがいない間、無茶な真似はするなよ。」
ゼニスとシリルから視線を浴びたリゼルは、素振りをする腕をピタッと停止させた。
「わ、わかってるよ。オレだって留守番くらい、ちゃんとできるってば。」
いくらか動揺しつつ、再び両手に持った武器で空を切る。ウルは定位置となっている壁際で丸くなっていたが、むくりと起きあがると、シリルの脇まで移動した。
「どうしたの、ウル? ほえ? うんうん、へぇ~、そうなんだ。」
「か、母さん? まさか人狼の言葉が解るのか?」
「もちろん! ぼくを誰だと思ってるのさ~。獣王子だぞ!」
オオカミの姿で鼻を鳴らすウルは、クククッと笑っているようだった。シリルになんと告げたのか内容が気になるリゼルだが、本人に訊ねては癪に障るため、あえて知らん顔を装った。素直じゃない我が子をよそに、荷物を整理しながらゼニスが代弁する。
「シリル。ウルは今、なんと云ったんだ?」
リゼルは片方の獣耳をピクッと動かして、会話内容に聞き入った。
「えっとね、西緯の橋から行かないほうがいいって。」
「ならば、迂回するとしよう。ウルよ、橋に近づくと危険なのか?」
ゼニスが確認すると、ウルは小さく頷いた。それから、シリルが付け加える。
「なんかね、熊の親子がうろついてるみたい。あと、火薬とか、複数の人間の臭いがするンだって。」
「この辺りは禁猟区域だが、そいつらは密猟者かもしれん。」
「みつりょう……、」
「心配するな、シリル。おれたちが狙われることはない。」
「でも、熊の親子は? 大丈夫かな。」
「助けたいか。」
「ほえ? そんなことできるの?」
「おれが密猟者を殺す。それだけの話だ。」
「な、なにそれ!? いくらゼニスでも人殺しはダメだよぅ!!」
「ふっ。だろうな。とはいえ、懲らしめる程度ならば問題なかろう。多少、手荒でなければ意味がない。」
「ゼニス……、」
「どうする? 橋から行って密猟者を撃退するか、ほうって迂回するか。シリル、おまえが選べ。おれはどちらでもかまわん。」
「うぅっ、そんなの急に云われても困るよ。ぼく、ゼニスに危ないこと頼みたくないのにィ……、」
シリルは眉をひそめ、真剣に悩んだ。
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