186 / 364
第185話
しおりを挟むゼニスが人狼のオオカミと向き合っているうちに、シリルはワンピースを手さぐりして袖を通すと、リゼルに状況を説明した。
「リゼル、リゼル。あのひとは真神だよ。最初はね、足をけがしてるようだったから、ぼくがお世話をしてあげたの。そうしたら、いつの間にか人型になってて、……その、ぼくは雌だから、赤ちゃんをつくろうと思ったみたい……。」
「は? なんだよそれ。母さんは父さんの番いだろ。ほかの誰かの子を孕んだりしちゃ、だめじゃんか。」
「そうなんだけど……、」
「未遂だよな?」
「ほえ?」
「だから、尻! 無事なのか? 交尾したのか!?」
「まさか! 挿れられてないよ!」
「はぁーっ、間に合って良かった。母さんこそ、もう少し警戒心を持てよな。オレが云うのもアレだけど、誘い受けにしか見えない性格と顔をしてるンだぞ。」
「な、なにそれ、どういう意味?」
「躰つきは雄だけど、色気がハンパないってこと。オレだって、母さんを見てると手をだしたくなる。」
「え? えぇ~っ!? なにそれ!! リゼルも変態なの!?」
「“も”ってなんだよ! “も”って! ふつうに野生の本能だろ!!」
「本能って? それじゃあ、リゼルはもう生殖行為ができるの?」
「できるよ。少し前からチンチンが増大するようになったし、無精ってやつもした。父さんに話したら、それは雄として当然の成熟過程で、健康である証なんだってさ。」
「や、やだぁ。ぼくだけが知らずにいたのぉ。」
「母さんにも相談したほうがよかった?」
「それはそうだよ!」
「オレ、母さんに興奮するかもよ?」
「えーっ? そんなの困るよ~。リゼルのエッチィ!!」
ゼニスに対し、睨みをきかせていたオオカミだが、あまりにも悠長な母子による下ネタが背後から聞こえてくるため、緊迫感が薄れていった。
「おまえら3人は、親子なのか?」と、オオカミ。
「そうだと云ったら?」と、ゼニスが答える。
「マジかよ。人間と獣人が交尾したのか? そんな話、どこへ行っても聞いたことないぜ。……あのリゼルって息子、どうりで半獣くさいわけだ。……ああ、くそっ。時間切れだ。……オレサマは人狼で、名前はない。」
オオカミはゼニスの前で「ウォーン!」と、遠吠えをすると、本来の姿に戻った。
「なるほど。真神か。人型を取るより、そっちの姿でいるほうが気高く見えるぜ。」
ゼニスの科白に、オオカミは満足そうに目を細め、背後のリゼルを振り向いた。そして、それは一瞬の出来事だった。オオカミはターンッと跳躍すると、リゼルの首筋に咬みつこうとした。
「リゼル!!」
と叫ぶシリルの目に、短剣の一閃が疾る。容赦なく切りつけられたオオカミは、咽喉元から鮮血が飛び散った。ドサッと地面に倒れ、ヒューヒューと粗い呼吸をくり返す。腰に剣を戻したゼニスは、荷物の中から城下町で購入したばかりの薬品を取り出すと、オオカミを手当てした。
「父さん、なんでそんなやつ助けるンだよ!」
「勝負は着いてる。罰も受けた。あとは、利用させてもらう。」
「利用?」
「こいつは、おまえの鍛練の役に立つだろう。」
「オレの稽古の相手をさせる気?」
ゼニスはリゼルの顔を見据え、薄く笑った。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる