恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第180話

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 武器屋の騒動そうどう収拾しゅうしゅうしたお礼に貴重な銘品めいひん無料タダで手に入れたリゼルの装備は、臍帯さいたいを切ったときにゼニスがもちいた小刀こがたなと、短剣クリスダガーの2本となった。したがって、これよりのち、リゼルは二刀流の使い手を目ざし、力技パワーで相手を降伏させるゼニスとは異なる戦術を身につけていくことになる。

「リゼル。腹は減ってないか。」
「え? ああ、うん。われてみれば空腹かも……、」 

 めずらしい武器に気を取られていたリゼルは、すっかり短剣クリスダガーに夢中になっていた。店の置き時計で時刻を確認したゼニスは、非常食の買い出しより先に、腹拵はらごしらえをすることにした。ゼニスは、町へ来たついでに、リゼルにも食器や箸の使い方を教えておくべきだろうと考えた。ちなみに、文字の読み書きはシリルが担当している。

 試しに菜店レストラン献立メニューで学習能力を確かめると、リゼルはすらすら声に出して読んでみせた。

「おまえの成長ぶりには驚かされるな。」
「え? そうかな? 獣人けひとなら最初の1年で成獣おとなになるやつもいるから、オレはふつうだと思うけど……、」
「そうだとしても、人間とは異なる発達過程であることはまちがいない。あまりにも早すぎて、もう少しくらい、ゆっくりでもいいだろうにと思ってしまう。」
「なんだよそれ。オレは、早く父さんみたいに大きくなりたいけどな。」
「そう急ぐな、リゼル。おまえの生涯は、まだ始まったばかりだ。」
「はい、父さん。」

 リゼルと過ごせる親子の時間は、残り少ない。ゼニスは、そんな予感がした。子育て期をだっした今、リゼルのためにできることは、世の中との関わりを増やしていくことである。独立したあと、生活に不安や寂しさを感じさせないためにも、人間らしくふるまう姿勢は大事である。本来の姿がどうであれ、いつか必ず、人肌ひとはだが恋しいと思わずにはいられないはずだ。リゼルのカラダには、ふたり分の血が流れている。獣人けひとであり人間でもある存在につき、ゼニスは少しばかり我が子の将来を懸念けねんした。

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