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第178話〈人助けと恩返し〉
しおりを挟む武器屋で起きた小競り合いに、自ら巻き込まれるカタチで登場したゼニスに、ひとりの男が襲いかかってきた。ヒュッと投げつけられた鋭利な刃物が頬を掠め、ドスッと壁に突き刺さる。
「父さん!!」
扉の外で慌てるリゼルの声が聞こえたが、ゼニスは目の前の状況に集中した。店主はガクガクと慄えており、床に紙幣が散らばっている。昼間から強盗に入られたようすで、とかく物々しい雰囲気だ。
「なんだぁ、きさま。邪魔するなら出ていきな!」
「痛い目に遭わせるぞ!」
「剣をさげているってことは、正義きどりの渡り戦士か、なまっちょろい傭兵ってとこかぁ?」
汚らしい言葉で威嚇されたゼニスは、返り討ちにする判断をくだし、わざとらしく肩をすぼめた。
「御託を並べるな。聞く耳を持たん。」
「なっ、なんだと!? 生意気なっ!!」
ゼニスの挑発に激怒した男が、ふたり同時に向かってくる。振りあげられた拳を寸前で躱し、もうひとりの男の背後にまわり込むと、尻を思い切り蹴飛ばした。商品棚に倒れ込んだ男は、咄嗟に売り物のロングソードを手にして振り向き、ゼニスを切りつけようとした。
「これでも喰らえーーーっ!!」
腰から剣を引き抜いたゼニスは、ガキィンッと刃を打ち払い、長い脚を使って再び男の腹部を蹴り飛ばすと、もうひとりの男を目がけて接近し、ザッと空を切る。剣の扱いに慣れているからこその身のこなしにつき、盗賊の頭とおぼしき浅黒い肌の男からギロッと睨まれた。
「おまえら、騒ぐな。……この男は只者じゃねーと見た。おぅ、あんちゃん。ずいぶん落ちついてるじゃねぇか。さては、どこぞの組織の戦闘要員か?」
「……そんなものは知らん。おれはただの通りすがりだ。」
「通りすがりだと? かかかっ! だったら尚更、おまえには関係ないだろうがよ。わざわざ首を突っ込むンじゃねーよ、うっとうしい野郎め!!」
「五月蠅い。おれの鼓膜が破ける。黙れ。」
頭の男さえ屈服させてしまえば雑魚は下手な動きができなくなるため、ゼニスは容赦なく剣を振るい、あっさりその場を制圧した。
「リゼル、もういいぞ。来い。」
「す、すごいや、父さん。」
店内の安全を確保してからリゼルを呼び込むゼニスは、無傷で盗賊に縄をかけることに成功した。リゼルは店主に近づき、腕の傷へ視線を落とした。
「あいつらに切られたのか?」
「へ、へぃ。いきなり現れて、……腰を抜かしてしまってなぁ……。どこのどなたかは知らないが、助かったわい。感謝するぞい。」
「いいってことよ。オレの父さんは強いから、これぐらい朝飯前だぜ!!」
ゼニスの力量を自慢げに語るリゼルは、人間である父親を誇らしく思った。
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