恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第176話

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 シリルを残して洞窟を出たゼニスは、背後からついてくるリゼルを振り向いた。頭巾フード獣耳けものみみを隠していたが、裸足はだしで歩く姿は、人間の目には不自然でしかない。本来ならば、目立つ行動はなるべくひかえさせるべきだった。とはいえ、城下町ではリゼルにふさわしいものを買いそろえてやりたいという思いがあり、同行を許可した。しかし、ゼニスたちが留守るすにするあいだ、洞窟ではシリルがひとりで過ごすため、のんびりする予定はない。自然領では、密猟者みつりょうしゃなどと遭遇する危険があるため、万が一にそなえ、シリルには森へ出歩であるかないよう注意をうながした。

「父さん、父さん。」
「なんだ?」
「父さんは人間なのに、なんで獣人けひとの母さんといっしょになったの?」
「……それを聞いてどうする。」
「どうもしないけど……。オレって何族なにぞくなのかなぁと思って、」
「おそらく、半獣はんじゅうと呼ばれるだろうな。人間と獣人けひとの親をもつ以上、どちらの血も流れている。」
「それって、つまり、半人前はんにんまえってこと?」
「そうではない。おまえは、おれとシリルの分身ぶんしんだ。自分の存在をほこらしくとらえろ。」
「……オレ、そんなふうに思えないよ。」 
「ああ。今はな。その内に自信がつくだろうさ。おまえはすじがいい。期待している。」

 ふだんのゼニスは滅多めっため言葉を口にしないため、リゼルは内心よろこんだ。父と子のふたり旅は、有意義ゆういぎな時間でもあった。そこでゼニスは、現在のリゼルの体力を把握すべく、アカデメイア川の橋まで競争することにした。すると、リゼルは高い脚力きゃくりょくを発揮して、ゼニスより先に到着ゴールした。

「おまえの足の速さは、シリルゆずりのようだな。」

 あとから追いついて息を切らすゼニスだが、リゼルの呼吸は乱れていなかった。

「へへへっ。オレは父さんと母さんの子だからな!!」

 胸を張るリゼルの姿を見たゼニスは、我が子ながら誇らしく感じた。やがてくる独り立ちの日まで、リゼルの成長を見届けることはゼニスにとって、あらたな生き甲斐がいになっていた。剣術を伝授でんじゅさせた理由も、獣人のように山奥で暮らすのか、人間として生活を送るのか、選択肢を残すためである。

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