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第175話〈そして城下町へ〉
しおりを挟むリゼルの毛並みはゼニスに近く、よく似ていた。父親ゆずりの逞しい躰つきに成長しつつあり、剣術の腕も上達が早い。そのためか、好奇心旺盛で、外の世界に興味を引かれていた。しかも、獣人ではなく人間に対して強い関心を示した。
「リゼル、どうして人間がいるところへ行こうとするの? 危険がいっぱいだよ? ぼくも昔、集落から連れ去られたけど、ゼニスが助けてくれたんだ。」〔第39話参照〕
「たとえ人間って奴等が危険でも、オレは戦える。そのために父さんが鍛えている。そうじゃないのか?」
リゼルが木刀をブンッとひと振りして見せると、ゼニスは小さくため息を吐いた。
「……リゼル、腕試しの真似事ならば許可できない。」
「ちぇっ。父さんは人間のくせに、なんでそんなに強いんだよ。」
「さてね。気がついた時には、剣を手にしていたような性格だからな。」
「なんか、かっこいい科白……。」
「ふふ。ゼニスは、かっこいいんだぞ~。リゼルも、もう少し大きくなれば自由に行動できるよ!」
「母さん……。そうかな?」
「うん、そうだよ。だから、あんまり焦らないで。ぼくはリゼルのそばにいたいから、洞窟での3人暮らしは快適なんだけど、リゼルは嫌いなの?」
「……き、嫌いじゃないけど、」
「そう、良かった。ねぇ、ゼニス。次はいつ買い出しに行くの?」
荷物の中身から、不足しているものを確認しているゼニスにシリルが訊ねた。リゼルは裸身で近づき、ゼニスの脇から荷物をのぞき込む。
「父さん、それはなに?」
「おまえの臍帯を切った小刀だ。」
「もう使ってないの?」
「……欲しいのか?」
「うん、欲しい。」
「よく切れるから、小さくても扱いには気をつけろよ。」
「はい、父さん。」
荷物の中から10センチほどの小刀を見つけて手に入れたリゼルは、切れ味を確かめるため、夕食のげんし肉をもらい、サクサク切り分けた。
「うわ、ホントによく切れる。こんなのでけがをしたら、すっごく痛そう……、」
「刃物を向ける相手をまちがえるなよ、リゼル。そいつは、おまえ自身を傷つけることもできる代物だ。……シリル、おれは明日、町まで行ってこよう。リゼルには靴が必要だろう。」
「オレも行く! なぁ、母さん。父さんといっしょならいいだろ?」
リゼルの問いに、シリルは「仕方ないなぁ」と云って頷いた。
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