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第174話
しおりを挟む「か、母さんが、獣人の両性具有で、父さんが他国の人間で、傭兵……?」
にわかに信じられないリゼルは、顔色が青く変わった。3人で焚火を囲み、ゼニスから、シリルとの出会いと出産に至るまでの経緯を語られたリゼルは、頭の中が真っ白になった。
「いいか、リゼル。おまえはこの世に唯ひとりきりの存在ではあるが、必ず理解者は存在する。そいつらとめぐり合うためにも、おまえは、おまえだけに用意された道を進まなくてはならない。」
「ゼニス? そんな突き放すような云い方をしなくても……。それに、リゼルには、ぼくたちがいる。できるだけ、そばにいてあげようよ。」
「シリルの気持ちもわかる。だがな、それはリゼルのためにならん。」
「どうして? 家族なら、いつまでも一緒にいたって、いいじゃない。」
「ふつう、親は先に死ぬものだ。残された我が子が世間知らずでは、逝くに逝けないだろう。」
「そ、そんな……、ぼく、まだ死にたくないよぅ……。」
「ああ。まだ何十年も先の話だ。今から怯える必要はない。だが、人生ってのは、たいてい途中で終わるものだ。おれたちは、リゼルにできることはなんでもしてやろう。ただし、ひとりで生き抜くための教育を忘れてはならない。」
「ぼく、ゼニスがいなければ、ひとりじゃ生きられないよ……。」
「そうやって弱気になるな。おれたちは死すべき存在だからこそ、ふたつの肉体が求め合い、新たな生命を生みだして、この身の細胞が永遠に受け継がれていくよう、つくられているのさ。」
その情熱の根源は、愛の本質にほかならない。だが、ゼニスは不完全な愛を語るほど、ロマンチストではなかった。事実、ゼニスと出会ったばかりのシリルは、片思いを強いられた。あきらめずに理想の関係を追い求めるうち、ゼニスのほうで理解を示し、自己を外界から切り離す覚悟を決めた。むろん、シリルと生きる道を選んだ時点で、ゼニスに後悔はない。傭兵として働くことを放棄した以上、シリルのためだけに生きているといっても、過言ではなかった。
「……父さん、母さん、」
リゼルは長い沈黙のあと、ぽつりとつぶやいた。
「オレ、洞窟から出たい。人間がいるところに行ってみたい。」
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