165 / 364
第164話
しおりを挟む洞窟に戻ったゼニスは、寝床で安静にしているシリルへ声をかけた。
「シリル。具合はどうだ。」
「うん。平気だよ。」
「よし。それなら、産まれてくる子の名を決めておこう。」
「名前?」
「ああ、名前だ。まだなにも考えていなかっただろう。」
「そっか、そうだね。赤ちゃんには名前が必要だもんね!」
柵づくりの材料を集め終えたゼニスは、足りないものが何かを考えるうち、産まれてくる子どもに命名することだと気づいた。シリルは手のひらで腹部を撫でると、膝をついて寄り添うゼニスの顔を見据えた。
「それなら、ゼニスが考えて。」
「おれが?」
「うん!」
シリルに託されたゼニスは、思案顔になって沈黙した。どちらの性別で産まれてくるか定かではないため、慎重に考える必要があった。また、人間と獣人の両性具有とのあいだに誕生する、未知なる存在でもある。新たな生命に名付けることは、意外とむずかしい。長い沈黙の後、ゼニスはシリルのコーラルレッドの双眼を見つめた。
「リゼル、……おまえとおれの名前から少しずつ文字を取って〈リゼル〉というのはどうだ。」
「リゼル……? うん! いいよ、リゼルで決まり!」
「もし双子であれば、ふたり目は〈ルシア〉にしよう。これも、おれたちから取った名前だ。」
「うん! いいよ、ルシア! えへへ、3人目の名前はどうするの?」
「3人だと? いちどに3人も産めるものなのか?」
ゼニスは三つ子という存在に出会ったことがなく、人間の女性の多くは、いちどにひとりの子どもしか産まないものだと解釈していた。双子の出生率も稀だった。ゼニスがおかしな表情をして見せると、シリルは、くすッと笑った。
「ちがうよ~。たぶん、産まれてくる赤ちゃんはひとりだと思うけど、ぼく、赤ちゃんを産んだあと、また発情するかも知れないでしょ? その時は、ゼニスと交接したいもん。そうしたら、ふたり目ができるよねって意味だよ。」
「シリル……、それは……、」
残念ながら、処女膜を破られた両性具有が、再び発情することはない。生殖行為においては、たったいちどの機会しか用意されていない特殊な体質であることを、当の本人がまるで理解していなかった。ゼニスは、王立図書館へ何度も足を運び、ブリューナクという冒険家の著者が、長年に渡る研究によってまとめあげた両性具有についての書物をもとに、信憑性のある知識を前もって学習していた。両性具有は、いちど出産すると卵巣の機能が消失し、閉経してしまうのだ。その事実を伝えるべきか悩んだが、シリルは2度目、3度目の可能性があることを期待しているようすが見て取れるため、ゼニスは、あえて口を噤んだ。
「リゼル、元気に産まれてきてね。ぼく、早くリゼルに会いたいなぁ。」
シリルは笑顔で云う。ゼニスは改めて、ふたりきりで過ごす時間が充実しているものだと気づく。しかし、避けられない試練は、すぐそこまで迫っていた。
* * * * * *
5
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
夏休みは催眠で過ごそうね♡
霧乃ふー 短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。
実は、俺は催眠を使うことが出来る。
催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。
いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。
部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
通販で美少年型カプセルを買ってみた
霧乃ふー 短編
BL
通販で買っておいた美少年型オナホのカプセル。
どれを開けようか悩むな。色んなタイプの美少年がカプセルに入っているからなあ。
ペラペラと説明書を見て俺は、選んだカプセルを割ってみた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる