恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第163話〈新たな生命誕生〉

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 シリルの変化が見て取れたのは、交接してから十日目とうかめの朝だった。いつものように先に起床したゼニスは、洞窟の入口からさし込む陽光に目を細めた。暖かい風が流れてくる。より安全な生活空間を確保するため、きょうから洞窟の入口に木のさくをたてることにしたゼニスは、傍らで熟睡するシリルへ視線を落とした。すると、下腹部が数十センチほど盛りあがっていた。

「おい、シリル。おまえその腹は……、」
「うぅ~ん? ゼニス、もう朝ぁ? おはよう……、んん?」

 欠伸あくびをしながら目を覚ましたシリルは、おのれの腹部に異質な重量おもりを感じてガバッと、上体を起こした。

「うわぁっ!? ぼくのおなか、こんなに大きくなってる!!」
「どうやら、一発いっぱつで妊娠に成功したようだな。胎児の成長が急速に思えるが、おまえの身体しんたいは特殊なつくりをしているから、これで問題ないのだろう。」
「うわ~、すごい。本当にゼニスとの赤ちゃんができたんだ? やったぁ!!」

 嬉しそうに笑うシリルを見ても、ゼニスは素直すなおに喜ぶわけにはいかない。医術の知識は多少なりとも心得こころえていたが、それはあくまで戦場に立つ傭兵ようへいとしての過去を持つからである。傷口の応急処置と、出産にともなう必要な手当ては別物べつものだった。ある程度の流れは事前に調べていたが、不測の事態に直面した時、正確な判断をくだし、冷静に対処しなければならない。また、シリルの出産時期も未定である。いつ陣痛が引き起こるか不明確につき、早めに準備を始めた。

 樹木の皮で作った皿に竹筒の水を溜めて顔を洗い、布巾で拭く。続いて、荷物の中から酒瓶を取り出した。消毒薬の代わりになるアルコール度数の高い酒を一本、城下町で購入していた。自然領域に到着するまでのあいだ、生活に必要な最低限の物品はそろえておいたつもりだが、何かが足りない気がした。
 ひとまず、今後の山場やまばに備え、帯巻にベルトつるぎをさげると、森へ柵となる材料を集めに向かった。なるべく地面に転がっている太めの枝を拾いながら周辺を歩きまわっていると、チュウチュウッと、小動物のき声が聞こえた。視線を落とすと、ハイイロネズミの親子が足許あしもとを走り抜けていく。

「……ああ、そうか。くくっ。」

 不足していたものが何か、、判明したゼニスは、めずらしく声にだして笑った。

    * * * * * *
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