恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第162話

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 シリルとの約束を果たすため、交接を遂げたゼニスは、次なる役目に責任を感じた。当面とうめんのあいだ、母体となる可能性があるシリルには、栄養素の高い食事を摂らせなければならない。洞窟に押し寄せる野生動物のオスどもを容赦なく倒すと、有害な臓腑はらわたを取り出して、新鮮な食肉を確保した。

 周囲の安全を確認してから奥まで戻ると、早くもシリルの体調に変化が見られた。
「……ゼニス、おっぱいからなんか出てくるよ……。なんだろう、これ……、」
母乳ぼにゅうがもう出るのか?」
「ぼにゅう?」
「子を育てるために分泌される白い液体で、幼児にとっては主要な栄養源となるものだ。」

 云いながらシリルの傍らに膝をついたゼニスは、指で片方の乳房へれた。全体的に硬直している。出産前に母乳の準備ができているため、人間の女性とはあきらかに進行過程が異なっていた。シリルはふしぎそうな顔をして、少しでも圧迫すると乳頭から流れる白い液体を見つめた。

「そんなに気になるのか? 特に異常なことではないから心配するな。他に、どこかおかしいと感じる部分はあるか?」
「……う、ううん。……カラダが熱っぽいけど、それは平気だよ。……えへへ、あと、おしりの穴がちょっと痛いかな。」 
「なら、しりを見せてみろ。」
「え? えっ!? うわぁっ!?」

 ゼニスは、バサッと衣服をぐと、グイッとシリルの股をひらかせて、顔を近づける。

「ちょ、ちょっとちょっとゼニス! ゼニスってば!! そんなにじっくり見ないでよぅ。は、恥ずかしいよ……!!」
「今更なにを云いだすんだ。おまえの裸身はだかなら、こっちは幾度いくどとなく見てきたぞ。」
「それは、女体化してないときだし! と、とにかく、今はイヤだってば!!」

 やけに身じろいで恥ずかしがるシリルの爪は、ひどくとがっていた。躰じゅうの細胞が活性化しているため、獣族けものの血が騒ぐらしい。だが、交接中に抵抗するようすはなく、ゼニスに対して無防備な姿をさらしたシリルは、下腹部に手のひらを当てると、ふにゃっと表情筋をゆるめた。

「ゼニス、ぼく、絶対、元気な赤ちゃんを産んでみせるからね。」
「……期待しておこう。」

 ゼニスは焚火たきびを起こすと、下処理をした肉を木の枝に刺して焼き始めた。シリルは、動物性のあぶらの匂いに鼻をひくひくさせながら、再び寝床に横たわる。興奮状態が完全に落ちつくまで、ゼニスの横顔を見つめて過ごした。

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