153 / 364
第152話
しおりを挟む時系列にして、恭介が王立図書館で雨宿りをしている頃、塒で丸くなっていたシリルは、ガバッと跳ね起きた。
「シリル様?」
「ねぇ、ディラン。この音、雨が降ってる?」
「ええ、さきほど降りだしたようです。驟雨でしょうから、すぐに止みますよ。」
「ホントに? それじゃあ、虹が見られるかも!」
シリルは云うなり、裸身で外へ走ってゆく。ディランは内衣を身につけていたが、獣人の多くは全裸で生活するため、とくに問題はない。しかし、成獣へと身体のつくりが変化しつつあるシリルは、慎みの意識を持つべきだった。
「わぁ~、雨だ~!」
「シリル様、衣服をどうぞ。気温が下がっているので、風邪を引かれませんよう、ご注意ください。」
「はーい。」
シリルは素直に返事をすると、差し出されたワンピースを受け取った。数年前、ゼニスとふたりで見ることができなかった記憶を思いだし、虹がでるのを待つ。〔第87話参照〕
熱心に空を見つめていると、傍らに控えるディランが質問した。
「虹がでるのが、そんなに待ち遠しいのですか?」
「ぼく、なにか変かな?」
「いいえ、そうではございません。シリル様のようすが、あまりにも真剣でしたので、つい……、」
「えへへ~。それなら、ディランも一緒に見ようよ。」
「はい、悦んで。」
シリルとディランは、しばらく雨が降りしきる村を眺めていた。やがて、灰色の雲が薄れてゆき、太陽の光が射し込んでくる。
空模様を見つめるシリルのコーラルレッドの双瞳に、アーチ型の橋が架かる。
「うわぁっ、すごい! 本当にキレイな虹がでた~!!」
シリルは東の空を指で示すと、嬉しそうにディランを振り向いた。虹とは、太陽の光が空気中に浮遊する水滴に屈折し、反射して七色に分かれる大気光現象である。光は波長によって屈折率が異なるため、7色に分光されて見えた。
「ねぇねぇ、ディラン。もっと近づいてみようよ!」
無邪気なシリルは、泥濘んだ地面を裸足で駆けてゆく。いくら前へ進んでも、見える虹の大きさは変わらない。だが、ディランはシリルの自由に走らせた。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる