恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
151 / 359

第150話

しおりを挟む

 獣族けものと人間のあいだに産まれた混血種ハーフを、獣人けひとと呼ぶ。彼等かれらは夜行性の習慣があり、太陽の光が苦手だった。しかし、ときおり、人知れず人間界に姿をあらわすこともある。基本的に温厚おんこうな性格につき、長い歴史の中で人間に危害を加えたという事件は、記録されていない。
 むしろ、人間側が一方的に獣人を利用するフシがあり、恭介はまだ、そのような後暗うしろぐらい事実を知らずにいた。

 城下町の中央広場で、獣人と思われる男の子と遭遇した恭介は、いくらか困惑こんわくした。雨あがりの空から陽射ひざしがさし込み、男の子は目を細めた。コーラルレッドの双瞳ひとみをした獣人の存在を知る恭介は、無意識に男の子の虹彩こうさいを見つめた。濃い緑色をしている。

(……この子は獣人なのか? いくらなんでもそんなわけねぇか? 見た目は人間と変わらないけど、この独特な口調といい雰囲気といい、まるでシリル、、、くんのようだ……)

 なつかしい映像が脳裏をめぐる。シリルやゼニスと旅をした経験は、一生いっしょう宝物たからものである。今となっては、ジルヴァンと出会った幸運の次に、忘れるはずもない大切な出来事だった。

「おにーちゃん、どうしたの?」
「え……?」 
「悲しいの?」  
「いや、そんなことは……、」
「でも、泣いてるよ。」
「オレが?」 
「うん。だいじょーぶ?」
「あ、ああ。大丈夫だ……。」

 恭介は、涙がにじんだ眼で男の子を見つめていたが、指摘されるまで気づかなかった。つい哀愁的になってしまい、一張羅いっちょうらの袖口で目許めもとを拭いた。しばらくして、男の子は「あっ、お母さんだ~!」と云って走ってゆく。視線の先に、ぽつんと細身の女性が立っている。恭介が軽く頭をさげると、相手も深々とおじぎ、、、を返した。男の子も両手を振ってみせる。恭介は片手をあげて応じた。

(じゃあな、気をつけて帰れよ。……元気でな)

 結局、正体を確認できずに別れたが、男の子が獣人であることを信じて疑わなかった。また、帰路きろにつく途中、シリルの現在が気になってしまう恭介だった。

     * * * * * *

  ※次話より〈人間×獣人CP編〉
  となります。

     * * * * * *
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺はただ怪しい商人でいたかっただけ

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:46

【完結】子供が欲しい俺と、心配するアイツの攻防

BL / 完結 24h.ポイント:4,311pt お気に入り:140

三鏡草紙よろづ奇聞[次話更新6月15日〜]

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

アイオライト・カンヴァス -交わることのない、俺と、君の色-

BL / 連載中 24h.ポイント:1,201pt お気に入り:131

改造空母機動艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:6,313pt お気に入り:107

三千世界・完全版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:221pt お気に入り:15

【R18】奴隷に堕ちた騎士

BL / 完結 24h.ポイント:560pt お気に入り:448

総受け体質

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:151

崖っぷちOL、定食屋に居候する

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:184

東京ラプソディ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:136

処理中です...