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第150話
しおりを挟む獣族と人間のあいだに産まれた混血種を、獣人と呼ぶ。彼等は夜行性の習慣があり、太陽の光が苦手だった。しかし、ときおり、人知れず人間界に姿を現すこともある。基本的に温厚な性格につき、長い歴史の中で人間に危害を加えたという事件は、記録されていない。
むしろ、人間側が一方的に獣人を利用するフシがあり、恭介はまだ、そのような後暗い事実を知らずにいた。
城下町の中央広場で、獣人と思われる男の子と遭遇した恭介は、いくらか困惑した。雨あがりの空から陽射しがさし込み、男の子は目を細めた。コーラルレッドの双瞳をした獣人の存在を知る恭介は、無意識に男の子の虹彩を見つめた。濃い緑色をしている。
(……この子は獣人なのか? いくらなんでもそんなわけねぇか? 見た目は人間と変わらないけど、この独特な口調といい雰囲気といい、まるでシリルくんのようだ……)
なつかしい映像が脳裏をめぐる。シリルやゼニスと旅をした経験は、一生の宝物である。今となっては、ジルヴァンと出会った幸運の次に、忘れるはずもない大切な出来事だった。
「おにーちゃん、どうしたの?」
「え……?」
「悲しいの?」
「いや、そんなことは……、」
「でも、泣いてるよ。」
「オレが?」
「うん。だいじょーぶ?」
「あ、ああ。大丈夫だ……。」
恭介は、涙がにじんだ眼で男の子を見つめていたが、指摘されるまで気づかなかった。つい哀愁的になってしまい、一張羅の袖口で目許を拭いた。しばらくして、男の子は「あっ、お母さんだ~!」と云って走ってゆく。視線の先に、ぽつんと細身の女性が立っている。恭介が軽く頭をさげると、相手も深々とおじぎを返した。男の子も両手を振ってみせる。恭介は片手をあげて応じた。
(じゃあな、気をつけて帰れよ。……元気でな)
結局、正体を確認できずに別れたが、男の子が獣人であることを信じて疑わなかった。また、帰路につく途中、シリルの現在が気になってしまう恭介だった。
* * * * * *
※次話より〈人間×獣人CP編〉
となります。
* * * * * *
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