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第146話
しおりを挟むアミィは、第6王子の命令に従い、恭介の身辺調査を始めた。まず、仕事中の恭介は隙がないため見送る。
「それでは、お先に失礼します。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
「はい、またあした。」
「は~い、さようならぁ。」
ユスラがいちばんに退勤し、執務室には恭介とアミィが残された。
「アミィさんは帰らないンですか?」
「へっ? あっ、そうね~。あたもそろそろ帰ろうかしらぁ。」
「戸締まりならオレがやっておきますから、お先にどうぞ。」
「そ、そぉう? それじゃあ、お言葉に甘えて帰るわねぇ。」
「どうぞ、気をつけて。」
「ん~、ばいばい、キョウくん。」
アミィは手をふりながら退出すると、扉を背にしてため息を吐いた。
「あたしったら、なに追い出されてるのよ、いやだわぁ。……ジルさまからキョウくんについて調べるよう云われたけど、案外、難しいわね~。」
小声でつぶやくと、そっと扉を開けてみる。こちらに背を向けて立つ恭介は、まだ伝票処理を続けていた。
「……まいにち夜遅くまで残業してるわよね~。ご苦労なことだわねぇ。キョウくんは事務内官の手本となるべき鑑だわぁ。」
恭介のうしろ姿を眺めながら、アミィは(無意識に)見とれた。恋愛感情とは異なるが、アミィは時々、恭介の存在を悩ましく感じた。たんに見た目の問題ではなく、恭介の成長ぶりが著しく思えてならない。
「う~ん、困ったわねぇ。とりあえず、誕生日だけでも聞き出したかったけど、いきなりあたしが訊ねたら、不自然じゃないかしら。……キョウくんってば、ああ見えて神経質なところあるし、けっこう頭の回転が速いから、ジルさまからの指示だってバレちゃうかも……。」
ぶつぶつ声に出して迷っていると、本人に気づかれた。
「アミィさん? そこで何やってるんですか?」
「きゃーーーっ!?」
ひときわ大きな声で叫んだアミィは、反射的に腕を振りあげた。そう何度も不意打ちを喰らうほど恭介の反応も遅くない。アミィの手頸を捉え、いわれのないビンタを阻止する。
「いやぁん!? キョウくんったら、やめてぇ!!」
「そっちこそ、変な声を出さないでくださいよ。」
手を離されたアミィは、思わず後方へ身を引いた。
「もう、なによぉ、キョウくんったら知ってたのぉ?」
「知ってたって?」
「だ、だからぁ、あたしが覗き見してたことよぅ!」
「オレを? なんでまた、そんなこと……、」
恭介は扉の隙間に近づいただけで、廊下にアミィがいるとは思わなかった。だが、妙に焦るようすを見て、少し違和感を覚えたが、質問するより先にアミィは「あたし、行くわね! さよなら~」と云って立ち去った。
「……なんなンだ?」
恭介は首を傾げつつ、執務室の扉をパタンと閉めた。本日の残業を切り上げると、さらに1時間ほど勉強をしてから帰宅した。
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