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第143話
しおりを挟む恭介は、まず、内気なユスラから本音を引き出すため、自分の身のうえ話をした。
「オレもさ、いい加減ひとり暮らしを始めたいンだけど、目星をつけた場所に空室がなくてよ。未だに、知り合いの部屋を間借りしてるんだ。やっぱ、この年齢になると、自宅に憧れるよな。」
「まいほーむとは、なんですか?」
「持家のことだよ。一戸建てとか、マンションの一室を購入したりとか。」
「ま、まんしょん? キョースケさんって、時々ふしぎな言葉をつかいますね。」
「そうか? オレだって誰かに教えてもらわなきゃ、知らないことだらけだぜ。」
「キョースケさんは、十分な知識をお持ちのように見えますが……、」
「そんなことねーよ。第6王子に選ばれるまで、情人なんて存在も知らなかったし、」
「あっ、それは確かにそうでしたね。ぼくも同じ意見です。」
ユスラの同感を得ることに成功した恭介は、そのまま私生活の話題を続けた。
「オレなんか、本当に偶然だと思うンだよなぁ。ほら、共同浴場の近くに掲示板があるだろ? そこの貼り紙に出された求人情報を見たくて朝イチで向かったら、ジルヴァンと遭ったんだ。その時のやりとりだけで、オレを最初の情人に確定しちまうンだから、ある意味すげぇよな。」〔第16話参照〕
「それは、第6王子様のお目が高い証拠ではありませんか? わずかな時間でキョースケさんを選ばれるなんて、よいものを見分ける能力をお持ちなのですね。」
「いやいや、オレを褒めるところじゃないからな。……キミの場合は、どんな流れだったンだ?」
なるべく自然を装ってユスラ自身の過去へさぐりを入れると、恭介の作戦勝ちとなった。ユスラは伝票をまとめた箱を棚へ片付けてから、淡淡としたようすで応じた。
「ぼくは、いつも家には早く帰りたくなくて、夕方になると城内をうろうろしていました。第4王子のシグルト様とは、何度かすれ違ったことがあり、ぼくが床にしゃがんで頭をさげるたび、気にかけてくださっていたようです。」
「へぇ。それって、キミが好みの顔だったからじゃないのか?」
恭介がピッと人差し指を立てて云うと、ユスラは首を横へ振った。
「いやだな、そんな冗談やめてくださいよ。シグルト様は、ぼくみたいな子どもに興味ありませんから。」
「でも、情人だろ?」
恭介の問いに、ユスラは苦笑した。
「……ぼくは、シグルト様と共寝をしていません。……この件は、誰にも云わないでくださいね。」
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