恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第142話〈ユスラとの考察〉

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 良かれと思ってしたことが、誰かにとっては傍迷惑はためいわくな場合もある。

(つまり、オレが仕事をすればするほど、今までの不始末があばかれて、おもしろくないやつのほうが多くいるってことだろ? そんなのは納得済みで動いてるンだけどな……。あぁ~っ、くそっ。なんだ、この不完全燃焼ねんしょうな感じは!!)

 病院から関係者住居へ帰宅した恭介は、部屋の長椅子ソファへドカッと座ると、深いため息を吐いた。ちなみに、ルシオンの意見を参考にしていれば、兵士と一触即発いっしょくそくはつの状況は避けられた。
(ばかだろ、オレ。変なところで張り合って、みっともねぇ結果を招いちまった……)
 ルシオンの助言を無視して病院に足を運んだ恭介は、今頃いまごろ嘲笑ちょうしょうされているにちがいなかった。

(……少しくらいの不正なら、見逃すべきなのか? 少しくらいってなんだ? どこまでが許せる範囲になるんだよ。そんなことしたら、同じ仕事をしているユスラにも、こっちの勝手な都合を強要させることになっちまうじゃねーか)
 結局、ある程度の取り締まりは必要で、特例を認めてしまえばキリがないというドツボにハマる。
(あぁ~っ、だめだ、だめだ! こんなンじゃだめだ!! ……あの看護師の言葉をに受けてどうする。だいたい、オレは真面目な人間でいるつもりはねぇんだよ。周りの連中が、いちいち買いかぶりすぎなんだ。……今のオレは、もっとジルヴァンのそばにいたいだけで、正義とか偽善とか、そんなこと、何も考えちゃいねーのに……)
 モヤモヤしながら半日を過ごした恭介は、ふと我に返り、文官試験の勉強にはげんだ。だが、あまり集中できずに貴重な休みが終わってしまった。

 
 翌朝よくあさ、執務室へ出勤した恭介の顔を見たユスラは、驚きの声をあげた。
「キョースケさん、どうしたのですか!?」
「うん? どうしたって何が?」
「だって、目の下にクマ、、ができていますよ。」
 ユスラは自分の眼を指で示して云う。恭介は目頭めがしらをこすり、「ただの寝不足だよ」と返した。眼精疲労によって血液の酸素不足が起こり、目の下が青く透けて見えている。
「ちょっと考えごとをしてたら、朝になっちまって……、」
「悩みごとですか? ぼくで良ければお聞かせください。」
「うん? ああ、そうだなぁ。ユスラくんも情人イロなんだよな……。」
「えっ? も、もしや、悩みごとは情事じょうじについてですか?」
「いや、共寝そっちじゃない。ジルヴァンとは順調だよ。」
「では、いったいどのような……、」
「うーん、まぁ、たいしたことじゃねーんだけどよ。」

 恭介は、云いながら席につく。手荷物のサックを長机の下に置くと、伝票の山を、ちらッと見た。
「キョースケさん、具合が悪ければ無理をせずに休んでください。そこの伝票なら、ぼくが片付けますから……、」
 ユスラが近づいてきて、恭介のようすを気にかけた。
(……やっぱり、だめだ。仕事内容を妥協だきょうするなんて、オレには無理だ。オレたちは事務内官なんだぜ。徹底的に追求して、不正をなくすことに意味があるンだ)
 恭介はユスラの顔を見据えると、ふっと、笑顔になる。
「キ、キョースケさん?」
「今、やっと、オレなりの結論が出せたよ。」
「え? それはなんのことですか?」
「悪いけど、詳しくは聞かないでくれ。みっともねぇ話だからさ。」
 恭介は肩の荷がおりたかのように、晴れやかな気分になった。仕事の姿勢については悩むだけ時間の無駄につき、ユスラとは別の話題に飛躍ひやくさせた。

「キミのほうこそ、最近は大丈夫なのか? いくら複雑な家庭環境とはいえ、暴力沙汰ぼうりょくざたはよくないからな。」
「……ご、ご心配してくださり、ありがとうございます。最近はとくに問題はありませんが、実は、来月あたり、家を出ようかと思っています。」
「おっ? ついに、ひとり暮らしを始めるのか?」
「いいえ、ちがいます。」
「うん? じゃあ何処どこに……、」

 云いかけて恭介は、ある仮説を立てた。ユスラにはあの、、第4王子が後ろ盾パトロンとして存在している。深読みしてしまうのは、必然だった。
 
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