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第141話
しおりを挟む「おれは!! あんたのような人間が嫌いだ!! いきなりあらわれて、自分の正義をふりかざして!! これまでの環境を乱す偽善者が!!」
感情的になっている兵士は、恭介に突きつけた果物ナイフを頭上まで振りあげた。
「ま、待て!! いったん落ちつけ!!」
恭介は防御すべきか悩んだが、カラダが勝手に一歩前にでた。果物ナイフの攻撃範囲内につき、身を切り裂かれるおそれがあった。
(何やってンだオレ!? 後ろに下がったほうがよくないか!?)
兵士は怒気を帯びた顔つきのまま、突進してくる。万事休すかと思いきや、恭介の本能が働き、手脚を動かした。素速く身を反らせてナイフを回避すると、兵士の腕を掴み、ギリリッと捻りあげた。そこからさらに、ボルグから教わった足技をきめると、兵士の手からカシャンッと、ナイフが落ちた。
「何をやっている!?」
と、騒ぎに気づいた医者と看護師ふぜいの男性が駆けてきて、恭介と兵士のあいだに立つ。
「ここは病院ですよ。静かになさい。……そっちのあなたは廊下に出ていなさい。」
医者は恭介に向かって指示をだす。ひとまず廊下へ避難すると、白い看護服を着た男性から、状況の説明を求められた。端的に兵士との経緯を述べると、男性は表情を曇らせて云った。
「あなたは、ここへ来るべきではありませんでしたね。」
「オレは、ただ見舞いに……、」
「それは、自己満足のためでしょう。」
「いや、そんなつもりじゃ……、」
「あちらの患者は軽率な行動を取るほど、あなたに追いつめられたのですよ? うかつに近づいては危険です。……もちろん、逆恨みの可能性もありますから、先を見越して対処することはむずかしいです。けれど、冷静に判断しなければ、こうして痛い目に遭ってしまいます。」
「そうかも知れないが……、オレは……、」
「あなたはきっと、頑固な面も併せ持っているのでしょう。真面目で人から信頼されやすい性格の人ほど、一方的な悪意には注意が必要なんです。」
看護師は、これまでの経験による忠告を恭介にすると、窓口まで見送りについてくる。数多くの患者と向き合ってきた看護師は、適切な配慮をして恭介の背中を押してくれた。
「失礼ですが、職業を訊ねてもよろしいですか?」
「あ、ああ……。オレは内官だ。城で会計事務をやっている。」
「なるほど。根気の要る仕事を任せられているとは、やはり真面目な人なんですね。人柄が買われ、大事な役目につかれたりしていませんか?」
(……そりゃ、情人のことか?)
恭介が左手の人差し指に嵌める輪具へ視線を落とすと、看護師はニコッと笑った。
「堅実な労働姿勢は尊敬します。ですが、これからは周囲の変化にも、ぜひ目を向けて見てください。」
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