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第139話〈堅実な労働姿勢〉
しおりを挟むジルヴァンが目を覚ました時、恭介は円卓で紅茶を淹れていた。女官から新しいシーツと布団を受け取った際、目覚めの一杯にと用意された花の香りがする茶葉だった。
「おはよう、気づいたか。ジルヴァンも呑むか?」
「……お、おはよう。キョースケは早起きなのだな。……それは紅茶か? 吾も一杯もらうとしよう。」
「了解。」
時刻は早朝につき、帰宅するまで余裕のある恭介は、ジルヴァンとふたりきりの貴重な時間を過ごした。ジルヴァンもまた、共寝のあと、恭介がそばにいる状況に安堵しつつ、気恥ずかしそうにゴソゴソと衣服を着た。
「ジルヴァン、具合はどうだ。」
「む? それはどういう意味だ?」
「共寝で無理をさせただろう。どこか痛いところがあったら大事にしてくれよ。……ジルヴァンのカラダを好き勝手にしたオレが云うのも気が引けるけど、キミには、いつも笑っていてほしいからさ。」
「あ、朝から何を云いだすのだ貴様は。キョースケよ、なんだかようすが変であるぞ。」
「どこら辺が?」
「うーむ、どこがどうというか……、吾を見る目がいつもとちがうような……、」
「そりゃ、そうかもな。こうして会話をするたび、キミのことがもっと好きになるし、ずっと抱きしめていたくなる。性交渉も最高に気持ちがいい。」
ジルヴァンは「ぶばっ!!」と、呑んだばかりの紅茶を茶碗へ吐いた。
「大丈夫か?」と云って席を立ってくる恭介を過度に意識して、表情筋が引き攣っている。布巾を差しだす動作の流れでジルヴァンと口唇を重ねた恭介は、舌を絡めて深い口づけに及んだ。
「ふぁっ、んっ、キ……キョースケ……っ、」
「ジルヴァン……、」
「う、うぅっ! ……うむむっ!?」
執拗なまでに口唇を吸われるジルヴァンは、息苦しさのあまり恭介の頬をペチペチと軽く叩いた。
「き、貴様は何をするのだ!? い、息が詰まるではないか!! ……はぁっ、はぁっ、」
「すまん。止まらなかった。」
「ば、ばかものめが……、」
また次の呼び出しまでしばらくジルヴァンに会えないと思った恭介は、つい、強引な口づけを実行した。とはいえ、感情の赴くままに接しては、不要なトラブルを招きかねない。恭介は、わざとジルヴァンのそばを離れた。その場しのぎの手段として、相手の動揺が落ちつくまで声をかけず、目も合わせない。
ジルヴァンとの出会いを大切にしたい恭介は、実力を高める努力も不可欠である。
(オレが文官になったら、キミは喜んでくれるだろうか……)
紅茶の茶碗を空にした恭介は、室内の置き時計に目をやり、ジルヴァンに退出を告げた。
「うむ。気をつけて帰られよ。」
「ああ、またな、ジルヴァン。」
恭介には、きょうもまた、事務内官としての仕事が待っている。
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