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第138話
しおりを挟む『恭介、おまえ、会計士になりたいのか?』
『まぁね。公認会計士の資格を取ろうと思って。今から勉強して間に合うかな。』
『そもそも、性別も年齢も、学歴も問われないはずだ。チャレンジする自由は誰にでもあるさ。』
『なら、オレにも開業登録して独立できっかな?』
『それなら、起業した叔父さんに相談してみるといい。』
『ああ、そうする。』
大学生の恭介は、漠然と思い描く将来をカタチあるものにするため、会計士の道を目ざした。同時に、勉強に集中したいという理由で、付き合っていた女性と別れた。彼女との相性は決っして悪くなかったが、恭介自身の独占欲が薄れた結果でもある。
交際面で良好な関係を築く要素として、誠実な姿勢を心がけることが大事である。無理な進展を図り、情に流されては、信頼を失う可能性が高い。
恭介は小さな結果を積み重ねて成長するタイプにつき、いわゆる、中年運の持ち主だった。
コスモポリス城の中にある第6王子の寝間で朝を迎えた恭介は、鼻血を垂らしながら目を覚ました。
(……なんで今頃になって、学生時代の夢なんかみたんだろう? ……親父の顔、なつかしいな)
ムクリと上体を起こすと、血だらけの布団と、傍らで眠るジルヴァンの寝顔に目がとまる。
「……うお、マジか。イテテ、」
いつの間にか熟睡していた恭介は、起床するまで鼻血に気づかなかった。ひとまず、指で鼻頭を圧迫して止血する。原因は、ジルヴァンの腕が当たったにちがいない。恭介は寝台から抜け出ると絹衣に袖を通した。あらかじめテーブルに用意されていた水と受け皿で顔を洗い、扉の外で待機する女官に声をかけた。
「よう、おはようさん。すまないが、新しい掛け布団とシーツを持ってきてくれないか?」
「おはようございます、イシカワキョースケさま。寝台のお掃除でしたら、わたしどもの仕事ですが……、」
「いや、オレにやらせてくれ。ジルヴァンが起きる前に血がついたものだけ片付けたい。」
「血とは、いったい?」
「オレが鼻血を出しちまったンだ。だから、なるべく早く頼む。」
「か、かしこまりました。すぐにお持ちいたします。」
提案を聞き入れた女官は、パタパタと走りだす。恭介は「ふう」と息を吐くと、ジルヴァンの寝顔を見まもりながらつぶやいた。
「キミがオレを情人にしたこと、ずっと後悔させたくねぇなぁ。……今はまだ、すぐ手の届く距離にはいられないけれど、キミを想わない日はないんだ。」
ジルヴァンの笑顔や安心する姿をできる限り近くで見まもり続けることが、恭介の思い描く新たな夢である。
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