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第133話〈やさしく丁寧に〉
しおりを挟む恭介は地面に落ちている着替えを拾い集めると、
「時間も遅いので、オレはこの辺で失礼させてもらいます。」
と挨拶をして、夜の中庭から立ち去った。自分を襲わせた兵士の処遇は、ふたりの王子の良識に委ねられた。
(あれだけ云ったからには、殺しはしねぇだろ……。今回の件は、オレにも落ち度があったンだ。夜道を歩くときは、背後に要注意だな。……ヘルメットとか、こっちの世界にはねぇもんなぁ)
元いた世界と異なる場所で日常を送る恭介だが、むやみな緊張感と胃痛から解放され、思わず「ははっ」と声にだして笑った。渡り廊下を歩いていると、ジルヴァン付きの女官が正面からやって来た。
「うん? キミは確か……、」
2週間ほど前、ジルヴァンからの書状を執務室まで届けに顔を見せた女官である。
「こんばんは、イシカワキョースケ様。本当は明朝にでもと思ったのですが、執務室に行ってみたところ、真っ暗でしたので引き返してきました。」
「オレに、なにか用か?」
「はい。ジル様から書状をお預かりましたので、なるべく早めにお渡ししたほうが、よいかと思いまして……、」
(手紙? ……ってことは、これはもしかして……)
恭介の予感は的中した。受け取って内容を確認すると、共寝の日時が記されていた。ドクンッと、心臓が大きな脈を打つ。
(一方的な召集とはいえ、こんなにも嬉しいモンだな……。オレはまた、ジルヴァンを抱けるのか……。今から興奮してちゃ、さすがにマズイだろ。中学生じゃあるまいし、ラブレターにトキメキすぎだ……)
女官は無表情で頭をさげると、恭介の前から立ち去った。二度目となる共寝の呼びだしを受けた恭介は、身が引き締まる思いだった。
(次こそは、オレの気持ちをちゃんと伝えなきゃな)
いつからジルヴァンを大事に思うようなったのか不明だが、ルシオンに無自覚だと指摘されるほど第6王子との発展に、心は揺れ動いていた。わかりやすい変化を認めたのは、なにもルシオンだけではない。口には出さずとも、アミィやユスラ、ザイールやボルグなど、身近で接する人たちは気づいていた。躍進する恭介の気迫を、それとなく感じ取ることは可能である。
(……にしても、オレだけが夢中になりすぎてねぇか?)
見境が無くなりつつある点は、本人も自覚していた。
* * * * * *
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