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第129話
しおりを挟む「ルシオン、よせ!!」
制止する恭介の声を無視するカタチで、ルシオンは振りあげた鉄の棒で若者の頭部を強打した。ガキッと、重くて低い音が鳴る。
「やめろっての! それ以上やったら、死んじまうぞ!?」
「なぜ止める。こやつは王族の所有物である情人に手を出した罪人だ。これしきの罰は当然だろう。」
「だからって、こんな血だらけにするのは、やりすぎだ!」
コスモポリテス城の中庭に呼びだされた恭介は、約束どおりの時刻に足を運んだ。そのあとで入浴をするつもりで着替えを持参したが、目に飛び込んできた光景に驚いてしまい、地面へ放りだした。恭介を襲った犯人として両手を背面で縛られた若者は、見覚えのある顔をしていた。さくじつ、訓練室にやって来たボルグの部下である。
「キミを襲ったのは金銭で雇った城下町の不良だそうだが、こやつが主犯らしい。そうだろう? 下級兵士。」
「……は……い、……そう……です、」
尋問の度を越す体罰を身に受けた若者は、ヒューヒューと苦しげな息を吐く。草の上に倒れ込み、意識が朦朧となっていた。恭介はルシオンと若者のあいだに立ち、加害者を庇う発言をしたが、秘密の通路から登場した人物により、状況は険悪ムードになる。
「ほう……、わが実弟の情人は考えが甘いな。そやつの罪は、死を以って償わせてかまわぬものだ。ゆえに、シオンが正しい。」
「……誰だよ、あんた、」
「……ふっ。おまえが第6王子の“初男”か。名を、イシカワキョースケと云ったか。私は、レ・シグルト=ラフェテス=エリュージオと申す。ひざまずけ。」
「シグルトって……、まさか、第4王子……?」
ユスラを情人として扱う王子のひとりで、ジルヴァンの実兄である。高貴な雰囲気と威圧感を漂わせた長身の男だった。恭介は片膝を地面について軽く頭をさげた。ルシオンとシグルトから冷めた目で見おろされ、改めて身分の低さを思い知ったが、ふたりの王子の態度は、到底、認められないものだった。
(こいつら本当に王族なのかよ。いくら罪人だからって、兵士をなぶり殺すつもりか? ……ジルヴァンと、まるで大違いだな。……ちょっと世間知らずだけど愛嬌があって、言動がかわいくて、共寝のときも必死で……、って、うん? ああ、そうか。ルシオンもシグルトもなんか好かねーのは、属性が受け身じゃねぇからか? いかにも俺様気質っぽい容貌してるもんな……。どっちもイケメンだけど、ジルヴァンと同じ王子のくせに性格は真逆だな……。正直、関わりたくないタイプだぜ……)
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