恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第125話

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 ザイールから熱心に下半身を見おろされる恭介だが、冷静な思考をめぐらせた。

(……いま思えば、最初に会った時から、ザイールってオレのアソコに興味津々だったような気がするな。まぁ、チンチン人形ドール崇拝すうはいしてるくらいだし、実物にも関心が向くのは当然か? でも、なんでオレなんだ? キミにも同じ一物モノがついてるだろーに……)

 ザイールは視力が悪いわけではない。丸眼鏡は容姿における自信のなさを、カムフラージュするためである。だが、その素顔すがおはルシオンに負けずおとらず美形なのだ。私生活を共にする恭介は“もったいないな”という印象を受けた。
(キミはもっと顔をあげるべきなんだ。……どうしていつも下ばっか向いている? あ、もしかして相手の下半身に興味がありすぎて目線が低いのか? だとしたら、ザイールはただの変態だぞ? ……いや、他人ひとの趣味にケチをつけるのはよくねぇけども。ってか、あれだな。ザイールに恋人ができれば問題解決じゃねぇか? そいつの裸身はだかなら、いつでも見たい時に見れるだろうし……)

 うっかり長考ちょうこうおよんだ恭介は、控え目な声でザイールに話しかけた。
「あのさ、そろそろいいか?」
「も、もう少しだけ……、」
「……あんまりじっくり見てくれンなよ。そんな珍しいもんじゃねーだろ。」
「す、すみません。ですが、キョースケさまの一物いちもつは大きさも形も良くて、まさに理想的なので、つい……、あぁそれに、いつの間にこのようなツルツルに……、」
陰毛のことか?」
「はい……。」
「なんとなく、衛生的に剃ってみただけだよ。変か?」
「いえ……、そんなことはありませんが……、」
 ザイールは、うっとりとした表情で、いつまでも見つめる。じかさわりたいわけではなく、たんに、じっくり観察したい欲求が強いらしい。さいわい、恭介の身体作用に異常は見られない。相手がジルヴァンであれば、まちがいなく勃起ぼっきするのを耐える場面である。恭介の理性が働く優先順位はジルヴァンがダントツにつき、そう簡単に欲情しなかった。

(……なんか、きのうから厄日だな。こんなみっともねぇ姿、ジルヴァンに見せられねーぞ)

 結局、ザイールは気のすむまで男根をながめたあと、丸眼鏡を拾って顔に戻した。アルトゥルをぎゅっと胸に抱き、「ありがとうございました」と礼を述べる。恭介は、いくぶんおかしな気分になるが、「満足したのか?」と質問した。ザイールは、こくんと、小さくうなずく。恭介は身装みなりなおしながら、
「そういえば、さっき話があるとかなんとか云ってたよな?」
 と、時間軸を少し巻き戻した。ザイールは、すっかり本題を忘れていたようすで「あ!」と、声をあげた。

「そうです。そうなのです! キョースケさまの身分について、ようやく手続きが可能となりますので、そのお知らせです。」
「それってたしか、私奴やっことかなんとかってやつか。」〔第13話参照〕
 恭介は、なつかしいなと思った。ザイールの手違てちがいにより、留置所りゅうちじょに閉じ込められた記憶が脳裏のうりよみがえる。
「1年間、法的な問題を起こさず国内で就業しゅうぎょうを継続された方には、コスモポリテスの平民証書が発行されます。また、勤続きんぞく年数が3年を経過しますと、国民の権利が得られ、戸籍登録が可能です。」
「へぇ、そんなシステムがあったのか。」 
「しすてむ?」
「制度とか仕組みって意味だ。」
「キョースケさまって、時々ふしぎな言葉を使われますね。……お顔も異国のふぜいがあって素敵すてきですし……。」
「うん? あ、ああ。サンキュー。」
 ふだん、個人的な事情を掘り下げてこないザイールにつき、恭介は、うっかり口をすべらせた。ゆえに、早い段階で話題を切り替える。
「それで? 平民証書とやらが発行されると、どうなるンだ?」
「急な変化はありませんが、少なくとも転職てんしょく賃貸ちんたい契約などが便利になります。……わたしとしては、いつまでもこちらの部屋にいてくださって構いませんが、キョースケさまは自立を希望されているようなので……。」
「長いこと世話になって感謝してる。き部屋が見つかるまで、もうしばらくよろしくな。」

 ザイールは「はい、もちろん」と笑顔でこたえ、自分の元から恭介が去ってしまう寂しい気持ちを打ち消した。恭介のことを好きになってしまったザイールだが、もとより、叶わぬ想いだと決めつけている。

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